日本のストリップショーは今年で誕生70周年を迎えた。最盛期は全国で300軒以上あったストリップ劇場も今では20軒を切るまでに減少。絶滅の危機と言われる一方で、その芸術性に注目した女性客が急増するなど新たな動きも見られる。7回にわたって、ステージで観客を魅了し続ける個性的なストリッパーたちに話を聞くことで、“ストリップの今”に迫ってみたい。

●日本のストリップ誕生70周年

 ここ数年、ストリップ劇場だけにとどまらずに表現活動を行う踊り子が増えている。

 その代表格が、来年にデビュー20周年を迎える牧瀬茜である。

 ライブハウスやバーで行われるイベントでも踊る機会が多く、他にも演劇公演への出演と台本執筆、コラムの連載、小説の刊行、写真展の開催、イラストや造形作品制作など、彼女の活動の幅広さは「マルチ」や「多芸多才」といった言葉の枠に収まりきらないほどだ。

 踊り子になる前は、詩や絵など、自らの作品をベニヤ板に貼って路上で売っていた。「それで儲けようというつもりもなく、今考えれば自己表現だったと思います」と、牧瀬は当時を振り返ってそう語る。

 「その時、たまたま通りかかって私の作品を見てくれた女性がストリッパーをしていると聞いて、彼女の出ている劇場のステージを見に行きました」

 予備知識なしに初めて見たストリップは当時20歳の牧瀬の目にどう映ったのか。

 「なんて開放的な世界なんだろうと思いました。私は小学校低学年の頃から、いじめられたというほどでもないけど、何となくバカにされたり、仲間外れにされたりしてきたので、『どうしたら好かれるか』みたいなことばかり考えて、ずっと自分の心を閉じ込めてきたんです。だから裸になるストリップに凄く衝撃を受けたし、私もやってみたいと思って劇場を紹介してもらいました。多分、裸になりたいというよりも、精神的に開放されたかったんだと思います」

 98年に千葉県船橋市の若松劇場所属としてデビュー。それから、2012年の秋に家の事情で休業するまでの14年間は、年間300日のペースで全国各地の劇場のステージに立ち続けた。

 牧瀬が台本を書き、踊り子仲間と2011年に渋谷道頓堀劇場でコントを、2012年には西川口テアトルミュージックでトリオ漫才を披露したこともある。

 ストリップ休業中の2013年からは、お笑いや演劇が中心の浅草リトルシアターで自ら台本を担当した演劇公演に定期出演するようになり、現在も同劇場での日本文学と女性の艶(つや)をテーマにしたオムニバス公演「浅草艶絵巻」にレギュラー参加している。

 「私の父親は若い頃、浅草ロック座の文芸部員だったそうです。私がストリップを始めたことを意を決して話した時に、初めてその話をされて、『いい仕事だから頑張りなさい』と言われました。今、踊り子さんたちとの寸劇の台本を書いたりしていることに、不思議な血縁を感じますね(笑)」

 踊り子仲間を撮影した写真の展示や、彼女たちに話を聞いて書いた文章の連載は、休業前から行っていた。

 「最初はお客さんから戴いたカメラで、劇場で一緒になった踊り子さんを撮らせてもらううちに、『どうして、この人は踊り子になったのかな』と純粋に知りたくなって話を聞くようになりました。そうしたら、私の中だけで溜めておくのはもったいないと感じて、書かずにいられなくなったんです」

 所属していた若松劇場は2013年に閉館。

 その後、埼玉県久喜市のライブシアター栗橋からの誘いを受け、2015年5月にストリップ劇場への本格復帰を果たす。同劇場は2016年での閉館を予定していたが、観客の強い要望もあって存続が決まった。リニューアルオープンに向けて、牧瀬も内装や外装のペンキ塗りを手伝った。ロビーには、牧瀬が撮影した写真を飾ったミニ・ギャラリーが常設されている。

 他に、愛媛県松山市のニュー道後ミュージックへも定期出演している。ここは、地元のミュージシャンたちと踊り子がコラボする「コラボ・ストリップ」や怪談をテーマにした「怪談ストリップ」などの企画イベントがファンの間で評判に。

 「企画物の時はストリップの持つ“いかがわしさ”のイメージが一気に下がって、劇場に入りやすい感じが出るみたいですね。凄くお客さんが入っています」

 7月11~20日は、広島第一劇場に出演。ここは、今年1月に閉館となり、ラスト公演には牧瀬も出演したが、その後、4月から来年2月までの営業再開が決まった。

 また、7月5日は牧瀬の裸体へのボディペインティングと映像によるユニット「I.M.O.」のイベント(会場・はすとばら渋谷)があり、7~9日は元・踊り子らとのユニット「Sexy Monkeys」結成3周年公演(会場・新宿 シアター・ミラクル)が行われる。

 様々な場で活躍する牧瀬に、ストリップ劇場への思いを聞いた。

 「ストリップ劇場は、女性の裸を一番美しく見せてくれる場所だと思います。もっといろいろな方に足を踏み入れてもらうキッカケがあればいいですね」

 ◆西条昇(さいじょう・のぼる)1964年、東京生まれ。江戸川大准教授。専門はジャニーズ、お笑い、ストリップなどを中心とした「舞台芸術」と「大衆芸能史」。新聞・雑誌へのコメントと執筆、テレビ出演も多数。著書に「ニッポンの爆笑王100」など。今年3月には浅草・東洋館でストリップ誕生70周年イベントの企画・構成・司会を担当した。http://saijo-noboru.blog.so-net.ne.jp/