「ひふみん」こと、将棋棋士の加藤一二三(ひふみ)九段(77)が、あなたのお悩み相談に答えます。

 14歳でプロになり、昨年6月に引退するまで63年間、勝負の世界に身を置いてきました。敬虔(けいけん)なキリスト教徒として30歳で、洗礼も受けています。生きる厳しさと、聖書の教えをベースに、指導対局ならぬ、人生指南をしてくれます。毎週水曜日に掲載します。

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 <質問> 夫は70歳を過ぎたのに、生まれつきのせっかちで困っています。先日も、年がいもなく慌てて走ろうとして、転びました。幸いけがはありませんでしたが、危なくて心配です。(69歳 主婦 大阪市)

 

 <回答> 本当にどこもけがをしないでよかったですね。でも、次も大丈夫という保証はありません。打ちどころが悪いと骨折したり、頭を打って動けなくなったりすることもありますから。一事が万事。これに懲りたのなら、慎重になってもらいたいものです。

 私も78歳。階段を下りる場合は手すりを使うなど、気を付けています。「転ばぬ先のつえ」ではありませんが、「いい年をして」と言われないようにするための、いわば、危機管理ですね。

 将棋界の大先輩でもある升田幸三・実力制初代名人でさえ、勝てそうな将棋を読み間違えて、大一番で負けたことがあります。そのときに発した、「錯覚いけない。よく見るよろし」という名言が残っています。やはり、どんな人も、どんな時でも慎重に越したことはありません。

 西洋にもこんな昔話があります。ある国の部隊の指揮官が兵士に猛訓練を課した後、喉が渇いて水たまりに一目散に走る姿を見て、選抜するメンバーを決めました。ダッシュよく走っていった兵士を選んだでしょうか? それとも、周りを見渡してから飲み始めた兵士を選んだでしょうか?

 前者の俊敏さ、何も恐れずに水を飲む勇気を買ったわけではありまぜん。水たまりや、その水を飲む兵士の姿をじっと見て、大丈夫かを確認してから口をつけた後者の慎重さを評価して選んだのです。

 戦場で慌てて判断し、行動して負けてしまったら元も子もありません。この部隊はもちろん、隣国との戦いに勝利しています。落ち着いて行動できるようにしてください。

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 「お悩み解決! ひふみんの金言」は、今回で最後といたします。ご愛読ありがとうございました。