学校法人「加計学園」の獣医学部新設計画をめぐり、学部が設置された愛媛県の職員が作った文書に、柳瀬唯夫首相秘書官(当時)が「本件は首相案件」と述べたとする記述があることが10日、分かった。柳瀬氏は内容を否定したが、愛媛県の中村時広知事は、職員が書いた「備忘録」と認めた。文書には、安倍晋三首相と学園の加計孝太郎理事長が会食で、計画について話したことを示唆する内容が含まれる。首相は昨年、17年1月20日まで学園の選定を知らなかったと国会で証言。首相の「虚偽答弁」の疑いも浮上してきた。
「ない」とされた文書が、また「あった」。今回は、安倍首相の責任に直結する問題だ。加計学園が愛媛県今治市に獣医学部を新設した計画をめぐり、15年4月2日、県や市の職員らが首相官邸を訪れた際に記したもの。この中に、当時の首相秘書官だった柳瀬唯夫・経済産業審議官が「本件は首相案件」と話したとされる内容が含まれていた。「首相のご意向」「官邸の最高レベル」などの文言を、ことごとく否定してきた安倍官邸の主張を、根底から揺るがす内容だ。
柳瀬氏は10日、「自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはない」と否定のコメントを発表。しかし、中村知事は会見で、職員1人1人に聞き取った結果として、文書は、口頭説明のための「備忘録」と明かした。
公文書ではなく保管義務がないため、県庁内では存在が確認できないとしたが、「県職員は文章をいじる必要がないし、まじめに仕事をしてくれている。正直に報告してくれていると信じている」と、自信を示した。首相の関与については「分からない」と述べた。
柳瀬氏の言葉ではほかに、「要望が実現するのであれば(国家戦略特区と構造改革特区の)どちらでもいい」など、学園側の要望を把握していたとみられる発言も。さらに、「先日安倍総理と学園理事長が会食した際に、下村文科大臣が加計学園は課題への回答もなくけしからんと言っているとの発言があった」とあり、首相が早い段階で計画を知っていた可能性をにおわせる記述も含まれていた。
首相と加計理事長は、数十年にわたる「腹心の友」。第2次政権発足後十数回、会食やゴルフで接触したと昨年の国会で問題になったが、首相は「(理事長が)立場を利用して何か成し遂げようとしたことは1度もない」と反論。1度「申請段階で承知した」と述べたが、答弁を訂正。自身が計画を知ったのは、学園が事業者に決まった「17年1月20日」だと主張した。
文書の内容が事実なら、首相が計画を知った時期に疑義が生じ、「虚偽答弁」の疑いも浮上する。野党は今後、文書と首相発言の整合性を追及する。
獣医学部新設をめぐっては、文科省の文書にも「総理の意向」「官邸の最高レベルが言っている」と書かれ、「加計ありき」の大学認可といわれ続けた。首相は一貫して関与を否定し、大学は今春開学。沈静化したとみられたが、愛媛県の「備忘録」から、疑惑が再燃した。野党は今後は柳瀬氏らの証人喚問を求める方針。政府与党も柳瀬氏の参考人招致の検討に入った。約1年にわたりくすぶり続けた「もりかけ問題」は、重大局面に入った。【中山知子】