【シンガポール10日=中山知子】12日に史上初の米朝会談を行う北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と、トランプ米大統領が10日、ともにシンガポールに入った。初の「長期移動外遊」となる正恩氏が、20台以上の車列で到着した宿泊先ホテル周辺は、近隣住民も驚く超・厳戒態勢。トランプ氏のホテルは、正恩氏の滞在先から徒歩約10分の至近距離だが、本番までは自陣で作戦を練ることになる。

 白昼のシンガポール中心部が、「正恩厳戒シフト」になった。正恩氏は、トランプ氏に先んじて午後2時半ごろ、専用機ではなく、中国機でチャンギ国際空港に到着。同4時前、高級ホテル「セントレジス」に入った。警察がバイクで先導し車列は約20台。正恩氏が乗ったとみられるリムジンには、北朝鮮の旗がはためいた。

 セントレジスは20階建て。正恩氏一行は、高層階を貸し切っているとみられる。

 午後6時すぎ、正恩氏一行の車列はホテルを出発。「イスタナ(大統領官邸)」に向かい、リー・シェンロン首相と会談した。ホテル出入りの際は、4月の南北首脳会談に登場して「ムカデみたい」といわれた正恩氏のボディーガード隊が再び姿をみせ、車と並走した。車列はそのままシンガポール有数のショッピング街、オーチャードロードを進んだ。他の車の走行も制限されたが特に混乱はなく、車列を見守る観光客らが手を振る様子もみられた。

 正恩氏にとって、北朝鮮から約4800キロ離れたシンガポールへの外遊は、初の「長期移動」とみられる。地元テレビは、正恩氏とシェンロン首相の会談を生中継。正恩氏は堂々とした様子で握手をかわした。

 セントレジス周辺は、朝から物々しい警備が敷かれた。玄関一帯が車止めで防護され、ホテル内に入る車両は、トランクの中まで銃を持った警察官が検査。入り口には金属探知機が設置された。玄関は、外から人の出入りが見えないよう大量の観葉植物がどんどん追加され、「目隠し」用のテントも張られた。ホテルの向かい側にあるバス停は14日まで停止され、数百メートルにわたり鉄柵が設置された。

 ジョギングをしていた30代女性は、「日曜の朝は、この周辺はいつも静か。今日はアメイジング」と厳戒ぶりに驚いていた。

 一方、トランプ氏は午後8時半ごろ、専用機で到着。宿泊するシャングリラ・ホテルに入った。このホテルは正恩氏のホテルから徒歩約10分で、上り坂の途中にある。2つのホテルは人の出入りが制限され、夜を徹して厳重警戒が続いた。

 セントーサ島のカペラホテルで開かれる米朝会談は、明日12日。両首脳はそれまで「至近距離」に陣取り、にらみ合う形となる。