神奈川県座間市のアパートの一室から15~26歳の男女9人の遺体が見つかった事件は、明日30日で発覚から1年となる。女性8人に対する強盗・強制性交殺人、死体損壊、死体遺棄、男性1人に対する強盗殺人の罪で起訴された白石隆浩被告(27)は、ツイッター上の「自殺」をめぐるやりとりを通じ、被害者を巧みに自宅に誘い込み、犯行に及んだとされる。今もSNSで「死にたい」「泊めて」などのSOSを発している少女たちを支えようと活動を続ける「BONDプロジェクト」(東京、橘ジュン代表)に話を聞いた。
「死にたい」「消えたい」「泊めて」。座間市の事件から1年になるが、ネット上には、少女たちのSOSと、誘おうとしている男たちのメッセージのやりとりが続いている。BONDには、そんな少女たちからのLINEやメールでの相談が、月に1000件に上る。LINE相談を本格化した今年4月から9月までの6カ月間だけでも、緊急性が高く、実際にスタッフが会いに行った相手は170人を超えた。
「今、渋谷にいます」。「お金が200円しかなくて」「ツイッターで男の人と会ってお金をもらいます」。ハロウィーンを前にした金曜日の26日夜。午後8時過ぎにそんなライン相談が入った。BONDのスタッフがすぐに渋谷に急行し、少女を見つけた。15歳だった。
別の16歳の少女は「これからお台場で男の人に会います」と相談してきた。男から「会ったら殺したくなるかも」とメッセージが届き、怖くなっての相談。スタッフが乗り継ぎの駅で待ち構え、無事保護した。少女は会うのが怖くなったのに、会いに行かないと、その男がもっと怖くなるのではないかと恐れ、待ち合わせ場所に向かっていた。
BONDにつながった少女たちの背景はさまざまだ。家庭に虐待、ネグレクトなどの問題を抱え、家に安心できる居場所がない少女も多い。一方、家族や友人との関係が良好な「普通の」少女も多いという。現実世界の周囲との関係が良好だからこそ、ふと心が弱った時に周りに心配を掛けられず、一時的にSNSに相談相手を求めた結果、被害に遭うケースもある。
彼女たちにも、SNSで見ず知らずの男につながることに危機意識がないわけではない。ただ、多くの場合、誘う大人の方が狡猾(こうかつ)だ。白石被告は、複数の被害者と100回近いメッセージのやりとりを行った上で誘い出し、犯行に及んだとされる。
BONDの相談員は約10人。全員10~20代の女性だ。かつては相談する側の少女だったスタッフも4人ほどいる。話を聴き、1人1人の事情に合わせ、BONDでの保護のほか、シェルターや医療機関など適切な機関につないでいく。居場所がなく、助けを求めて外に出た彼女たちが、人生が変わってしまうような被害に遭う前に、まず出会う。そのために、地道な活動を続けている。【清水優】
◆座間9人殺害事件 2017年8月下旬~10月下旬、白石隆浩被告(27)が座間市の自宅アパートで女性8人に乱暴した上、男性1人を加えた9人をロープで首を絞めて殺害し、現金数百~数万円を奪ったとされる。被害者は1都4県の15~26歳の女性8人と男性1人の計9人。ツイッターで「自殺」の話題を通じて被害者に接近し、自宅に誘い込み、犯行に及んだとされる。警視庁は昨年10月から今年3月、殺人、死体損壊、死体遺棄の容疑で白石被告を計10回逮捕。鑑定留置を経て、東京地検立川支部が今年9月、強盗、強制性交殺人、死体損壊、死体遺棄の罪で起訴した。
◆BONDプロジェクト ルポライターの橘ジュン氏が2009年(平21)設立。DVにより、帰る場所の無い、または自宅が精神的なよりどころとなりえない青少年の保護を行うNPO法人。街頭パトロール、サイバーパトロール、LINE、メール、電話などを通じて、困難を抱えてしまった青少年の話を聴き、必要な場合は弁護士とも連携しながら、シェルターで保護したり、専門機関による次の支援につなぐ活動を行う。LINE相談は「@bondproject」。メール相談は「hear@bondproject.jp」。電話相談は毎週火、木、日曜日の午後4~7時に070ー6648ー8318で行っている。