天皇陛下の代替わりに伴い、世界で唯一元号を持つ国・日本は5月1日、新たな「令和」の時代を迎えた。大正から昭和、平成と4時代を生きた作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(96)が、日刊スポーツの取材に応じ、新時代を生きるためのヒントを語った。「生きるということは、したいことをするということ」と説く。時代とともに変化する恋愛観にも触れ、交流がある前皇后美智子さまとの秘話も明かした。令和への思いを2回にわたって連載する。

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-令和はどのような時代になると思いますか

寂聴 未来は若い人のもの。想像もできない、いろいろな才能が眠っていると思うので、それに期待します。でも、今の若い人にエネルギーがない。いつの世の中でも、革命はあるべきだけど、革命のエネルギーがないわね。以前、若い人が集まったところで「青春は恋と革命だ!」と言ったの。うわぁーって、言葉には感激するんだけど、実行しない。古い時代のほうが、世の中が生き生きしていました。平成は戦争がなかったことが一番素晴らしかったわね。今後も、戦争があってはならないけど、戦争以外で戦うことがもっとあると思う

-戦争以外で戦うとは

寂聴 昨今、天災がすごかったわね。子供時代から考えて最近が一番ひどい。生きる知恵で、そういうものを防げないかと思うわね

-AIに頼る時代も到来します。どう生きていけばよいのでしょうか

寂聴 人間、楽なほうを選ぶのね。そうすると世の中は面白くなくなります。生きるということは、したいことをするということ。生きるなら、何もしないで死んでいくよりも、傷ついてもしたいことをして、乗り越えていくほうが人生。恋愛や結婚もそうです

-時代とともに恋愛観や結婚観も変化した気がします

寂聴 めんどくさいと言って、恋愛しない子が増えてるのね。特に男は。おそらく、便利になったからでしょう。洗濯機が洗濯してくれ、外で安くておいしいご飯が食べられる。セックスはお金を出せばできる。男は結婚に対する憧れがなくなったけど、女は年ごろになったら結婚したい。結婚への夢はまだあるんですね。やっぱりチャンスがあれば、いろんな形の恋愛をしたり、結婚したほうがいいと思うの。本を20冊読むよりも、恋愛を1つしたほうが人間は成長します。私は今年97歳になりますが、愛してくれる人がいれば、いつでも恋愛します

-前天皇陛下と前皇后美智子さまは天皇家で初めてのいわゆる恋愛結婚でした

寂聴 美智子さまは、学生時代、恋愛したことがなく、「あなたが好きです」と初めて直接男性から言われたのが陛下だったそうです。「うれしくて、舞い上がってしまったのよ。何が何でも、どんな反対があってもこの方と結婚しようと思いました。ただ1人、愛したお方が陛下です」とおっしゃっていました。私は男をいっぱい作ったけど(笑い)、ただ1人というのも、素晴らしいと思いました

-陛下の後ろにそっと立つお姿は控えめで穏やかなお人柄がにじんでいました

寂聴 だいぶ前ですが、「今日のドレスは本当にお似合いで、すてきですね」と申し上げると、小さな声で「これは6年前に作ったものなの。そのまましまってあったけど、6年もしたら、みんな忘れているだろうと思うから、今日、着てみたの」とおっしゃっていたの。倹約家で本当にご立派な方。私が出会った中で最高の日本人女性です

-平成は「空気を読む」「忖度(そんたく)する」といった言葉が使われ、どこか閉塞(へいそく)感に包まれた時代だった気がします。世の中に息苦しさを覚える人もいるようです

寂聴 法話の時に皆さんの話を聞くと、悩みが、ちまちましてる。いろいろあっても、それはすごい経験をしたんだから、そこから新しい人生が始まると思えばいい。怖がらなくていい。私は、好きなように生きているから(閉塞感は)感じない。自分のしたいことをすれば、息苦しくなんてないですよ。【取材・構成=近藤由美子】

◆瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)本名瀬戸内晴美。1922年(大11)5月15日、徳島市生まれ。東京女子大卒。学生結婚した夫と北京へ。引き揚げ後の50年に離婚。文筆生活に入り、「田村俊子」「女徳」などで人気作家に。「夏の終り」で女流文学賞受賞。73年中尊寺で得度。74年京都・嵯峨野に寂庵を構える。「花に問え」「白道」「現代語訳源氏物語」「場所」など著書多数。06年文化勲章受章。