東京都品川区にある介護付き有料老人ホームで、入所していた黒沢喜八郎さん(82)を暴行、殺害したとして、警視庁捜査1課は22日、殺人の疑いで介護職員だった無職根本智紀容疑者(28)を逮捕した。根本容疑者は「暴行を加えたことはありません」と容疑を否認している。

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群馬県出身の黒沢さんは上京し、1962年(昭37)前後に品川で妻と食堂を開いた。2女に恵まれ、創業地の近くに食堂を移転し、ビルを建てるなど順調だった。店では気分が良くなるとお酒も飲むなど、明るい性格だったという。

50歳で脳梗塞に倒れ、右半身にまひが残り、身体障害者手帳の等級は重度の2級の指定を受けたが、リハビリを兼ねて食堂を続ける中で5級になるなど努力の人だった。次女は「親ながら、すごい人だと思った」と振り返った。

妻が94年に病に倒れ、食堂を閉店。05年に妻が亡くなると認知症が進んだ。ここ10年は次女の介護を受けていた。最近は、トイレに行きたい時に意思表示をする以外、言葉を発する機会は少なかったという。

今年に入り、次女が子宮がんを患い、抗がん剤治療が必要になったため、自宅近くの小規模施設を経て、3月2日にサニーライフ北品川に入所したばかりだった。事件前、最後に会ったのは3月末で、ヒゲのそり残しがあったことから「ちゃんとそってもらいなさいよ」と声をかけたという。

自宅が好きだった黒沢さんは入所前、次女に「入るのか」と聞き、「いつ(家に)帰ることが出来るんだ」と言い、1度、涙を見せたという。「施設でも部屋を出ようとしたことが何度かあったそうで、今回も帰りたくて出てきたのだと思う」。次女は、防犯ビデオに写った黒沢さんが、部屋から上半身だけ廊下に出した状態だった理由を推し量った。そして、「根本容疑者には(暴行を)やった時、どんな気持ちだったか全て白状して欲しい」と声を震わせた。【村上幸将】