児童虐待防止に取り組む、元警察官僚でNPO法人シンクキッズ代表理事の後藤啓二弁護士(59)が12日、児童相談所と市町村、警察の情報の全件共有と連携しての活動を求めた要望書を政府に提出した。要望書の提出は5度目となる。

後藤弁護士は要望書の提出後、厚労省で会見を開いた。その中で、18年7月に取りまとめられた政府の緊急対策で「虐待による外傷事案」に限定された児童相談所と警察との情報共有の対象を「虐待が疑われる全ての事案」に改め、全国の自治体に示すことを求めた。また、児童虐待防止法に規定する虐待の通告先として、警察を追加することも強く求めた。

後藤弁護士は、札幌市の池田詩梨ちゃん(2)が衰弱死し、傷害容疑で母親と交際相手の男が逮捕された事件で、道警が5月13日に「子供の泣き声がする」と110番通報を受け、児相に面会への同行を2度、要請しながら、児相が断ったことを指摘。「通報があった際、警察が児相に同行を申し込んだのは画期的。何らかの危険性を感じたのか。警察は児相と連携しようとしていた。チャンスがいろいろあって生かせれば、こんなことは起きなかったのではないかと強く感じる。大変、残念なこと」と語った。その上で「児童虐待防止法の虐待の通告先に、最も(虐待の)通告が入る警察が入っていない」と疑問を呈した。

札幌市の事件では、児相が18年9月に「母親が託児所に預けて遊び歩いている」との通告を受けて家庭訪問した際、母親の池田莉菜容疑者(21)が素直に受け入れ、詩梨ちゃんの体に目立った傷がなかったことなどから通告の事実はないと判断し、リスクアセスメントシートも作っていなかった。児相の関係者は「9月に母親に会えて、2度目の通告があった4月も、母親からすぐ連絡があったことで判断にズレが生じた。認識と危険度判定が甘かった」と説明した。

後藤弁護士は「私も警察にいたが、子供の顔に傷がないから虐待の認定は出来ないなど、1回の家庭訪問で安全だと、よく言えるなと思う。どの事件でも、児相の専門的能力の問題だと言うが、児相が自分たちだけで案件を抱え込むのでは、いつまでもこういう事件が続く」と強調。その上で「市町村、教育委員会、保健所など、みんなで見守らなければいけない。虐待の評価は主観ではダメで、関係機関が集まる場で客観的に行うことが必要だと思う」と力説した。

後藤弁護士は、1月に千葉県野田市立小4年の栗原心愛(みあ)さん(当時10)が自宅浴室で死亡した虐待事件を受けて、同市が2月に設置した「児童虐待事件再発防止合同委員会」の委員を務めている。野田市では副市長が中心となり、関係各位で連携強化をはじめ活発な議論が交わされているという。同弁護士は「委員会だけじゃなく実務者会議にも参加し、対応を見させていただき、気が付いたところを提言しています。5W1Hは当然。母親の言動はこう、傷はあった。母親は転んだと説明したとか客観的にしないといけない」などと、リスクアセスメントシートなどの報告書の書き方から具体的な改善案を提示している。

後藤弁護士は野田市での取り組みを踏まえ「野田市では、市レベルだがこういう方向でやっているというのを全国に広げたい。心愛さん事件の際、政府が我々の要望を緊急対策の際に受け入れてくれたら、詩梨ちゃんらは助かったかも知れない。政府の許されざる怠慢と言えよう」と怒りをあらわにした。【村上幸将】