川崎市の日本映画大学で4日、従軍慰安婦問題をテーマにした映画「主戦場」の上映と、同大ドキュメンタリーコースの公開講座「作品研究『主戦場』シンポジウム『表現をめぐって…芸術と社会』」が開催された。

「主戦場」は、同市で開催中の「KAWASAKIしんゆり映画祭」で上映が決まっていたが、市から主催のNPO法人KAWASAKIアーツに対し、一部出演者から上映差し止めを求めて訴えられている作品であることから、上映に対する懸念が示され、10月27日に上映の見送りが発表された。その映画祭の判断に議論が起こり、映画祭側は2日に、4日の最終日に上映すると発表する事態となった。シンポジウムは、上映の見送りを受けて、映画祭の開催地近くで上映の機会を回復すべく、日本映画大の安岡卓治教授の協力を得て開催された。

ミキ・デザキ監督は、慰安婦問題について日韓両国や米国から30人の有識者、論客、関係者30人に取材したうち27人のインタビュー、過去のニュース映像、国会での安倍晋三首相の答弁、元慰安婦の証言など多数の映像を交え、この問題における論争を浮き彫りにした。その製作意図について「この切り口で作ったのは(慰安婦の)論争に争点を当てたいと思ったから。もう1つは、多くの一般の日本人が、慰安婦の証言に対し、疑問を持って信じていないから」と語った。

劇中に折り込まれた映像や証言、論説の信ぴょう性の裏付けを、どう取ったか? と聞かれると「最終的に自分が責任を持たなければいけないのは、最初から分かっていた。公開後に、いろいろな質問もされるだろうから、答えられるようにリサーチしなければいけなかった」と答えた。その上で「微妙な問題なので、映画を作ったら、いろいろな攻撃が来るだろうと思ったので、恐怖感を抱いたこともあった」と吐露した。

また「インタビューを撮る時、相手(取材対象者)には『大学院の研究プロジェクトですけど、完成した映画は出来たら映画祭とか、僕の大学で公開する希望がある。一般公開もあるかも知れない』と伝えてあった」とも語った。

デザキ監督の思いがかない、映画は18年に韓国・釜山映画祭ドキュメンタリー・コンペティション部門に出品された。日本でも、ミニシアター系のドキュメンタリー映画や劇映画などの配給を行う、東風が配給し、4月20日に封切られた。

デザキ監督は「東風の皆さんが、重いリスクを背負い、配給してくれたことに、言い切れないくらい感謝しています。他の配給会社は手を上げてくれなかった」と日本で配給した東風に感謝した。その上で「5人くらいの社員しかいない、東風のような小さい会社が(日本の)表現の自由を守ってくれている。怖い現状」と、日本における表現の自由の現状に警鐘を鳴らした。

シンポジウムにはデザキ監督と安岡教授のほか、ジャーナリストで映画監督の綿井健陽氏、映画ジャーナリストの中山治美氏が出席。映画を中心に、日本で表現の自由が制約された過去の実例や、KAWASAKIしんゆり映画祭で起きたような上映中止が、各国の映画祭においてなされているのかなどの現状が報告された。【村上幸将】