ネット上では「アゲアゲさん」と呼ばれ、「将棋ユーチューバー」として活躍する将棋のアマチュア強豪、折田翔吾アマ(30)が、プロ入りをめざす棋士編入試験の5番勝負第1局が25日、大阪市の関西将棋会館で指され、98手で黒田尭之(たかゆき)四段(23)に勝利した。

「試験官」にあたる四段のプロ棋士相手に残り4局で2勝すればプロになる。第2局は12月23日、同所で出口若武四段(24)と対局する。1度はプロ棋士になる道が断たれたが、再び夢に挑む。

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将棋への思いをかみしめた。終局後、感想を聞かれた折田アマは正面を見つめ続けた。長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。「ようやく始まったという感じです。将棋を指せる喜びを感じながら、なんとか結果も出せたのでよかったかなと思います」。好発進に少しだけ、ほほ笑んだ。

先手の黒田の初手は意表を突く端歩突き。折田アマはあわてずに対応し、中盤以降にリードを広げ、押し切った。対局前の駒並べでは飛車より先に歩を並べてしまった。「こういう舞台だから、なんかいつもと違う自分なんかなと…」。緊張感はマックスだった。

最難関の三段リーグに5年10期参戦したが、26歳の年齢制限に阻まれ、退会した。「人生が終わった感覚でした」。あのときの心境を忘れたことはない。

夢は破れたが、好きな将棋にかかわり続けた。転機となったのが、動画共有サイト「ユーチューブ」との出会いだった。将棋講師の仕事をしながら、16年春に「ユーチューブ」にチャンネル名「アゲアゲ将棋実況」を開設した。自身が指すインターネット将棋の実況を中心に、ほぼ毎日、コンテンツを投稿している。現在のチャンネル登録数は約3万5000人。総視聴回数は2100万回以上。ファンからは「アゲアゲさん」と呼ばれている。由来について「自分のキャラとは逆のものを思いついた」という。

将棋ソフトとも対局を重ね、アマの強豪とも戦い、再成長した。8月にアマ枠で出場したプロ公式戦の直近の成績が10勝2敗となり、編入試験を受ける資格を得た。奨励会時代とは違い、人生をかけた5番勝負には多くのファンの後押しがある。「ユーチューブをご覧になっている方から多くの激励をいただいた。すごい力になっている。次も頑張りたい」。プロ入りまで、あと2勝だ。【松浦隆司】

◆折田翔吾(おりた・しょうご)1989年(平元)10月28日、大阪府生まれ。小学6年のとき、将棋のインターネット対戦に夢中になり、04年、森安正幸七段門下、6級で棋士養成機関「奨励会」に入った。21歳で三段に昇段。最難関の三段リーグに5年10期参戦したが、年齢制限に阻まれ、退会。現在はユーチューバー、インターネットを通して指導する将棋講師として活動している。居飛車党。