9月の台風15号の影響で、千葉県市原市のゴルフ練習場「市原ゴルフガーデン」の鉄柱が倒れ込んで住宅被害が出た問題で、元の生活に戻れないまま、年越しする被害者もいる。次男の自宅が被害を受け、片付けに通う父親の湯浅泰一さん(65)は鉄柱2本が屋根に倒れ込んだ次男夫婦の自宅建て直しを希望しているが、補償問題が解決するメドが立っておらず、取り壊しにも着手できない状態が続いている。

自宅が被害を受けた湯浅さんの次男夫婦は7カ月の孫と3人で、今も市原市内のアパートに仮住まいしている。補償問題に関しては厳しい状況も判明した。

ゴルフ練習場側は11月、練習場を解体して土地を売却し、被害者への補償費用にあてると発表した。現在、被害住民との間で災害ADR(裁判外紛争解決手続き)が行われている。

湯浅さんによると、22日に行われた第3回ADR説明会で、練習場が金融機関などに、少なくとも約1億5000万円の借金があること、練習場を更地にするための解体費用などに1億円以上かかると知らされた。ADRの弁護士から「土地が売れたら、債務支払いが優先的に行われる」と伝えられた。

登記簿によると、土地は裁判所から仮差し押さえ命令も出ている。湯浅さんは「練習場に多額の債務があることを初めて知った。補償のためではなく、借金返済の売却なのでは」と不信感をのぞかせた。「被害者への補償はいくらになるのか。相当、少なくなるのでは。このままでは泣き寝入りになる」と肩を落とした。

多忙な次男のために、少しずつ片付けを進める日々が続く。屋根が抜けた2階寝室は手が付けられず、木材やガラスが散乱したまま。2階からの雨漏りで1階天井の壁紙がはがれ、カビ臭さが鼻を突く。保険会社からは「全壊」とされた。市から次男への避難先の家賃補助は1年間限定。湯浅さんは「早く建て替えたいが補償問題が決着しないと、費用の工面もできない。次男も自宅が再建できないうちに、市からの住宅補助が打ち切られないか心配している」と話す。

練習場は住宅に倒れ込んだ鉄柱13本の撤去を11月に完了後、解体工事が進められている。湯浅さんは練習場が営業を止め、解体されることを「ホッとしている」と話した。「引っ越したくてもお金がないし、買い手もいないでしょう。今後もここに住むしかないから」。

被害当時、飛び散った無数のガラスの破片が顔を覆ったが、奇跡的にかすり傷で済んだ次男夫婦の3カ月の男児は現在7カ月になり、ハイハイできるまでに成長した。年末年始も湯浅さんを含め、家族総出で片付けを行う予定だ。湯浅さんは「悪い年だったけど、ついてる年だったと思うよ。息子夫婦や孫が大けがしなかったから」と振り返った。【近藤由美子】

◆住宅被害7万超 今年、日本列島を直撃した台風の中でも特に大きな被害をもたらしたのが、9月の台風15号と10月の台風19号で、いずれの被害も激甚災害に指定された。総務省消防庁HPによると、23日現在、台風15号による死者は全国で3人、住宅被害は7万7104棟。このうち、住宅被害は千葉県が最も多く、6万7369棟に上った。また、12日現在、台風19号による死者は全国で99人、行方不明者は3人、住宅被害は9万1652棟。住宅被害は福島県が最も多く、2万1340棟。