政府の緊急事態宣言を受け、サラリーマンの聖地と知られ、混雑する東京・港区のJR新橋駅周辺の風景は8日、一変していた。駅前のSL広場は閑散として、人通りが少ない。足早に駅に向かうスーツ姿の人が通りすぎる程度。広場の片隅みの路上で靴磨きを営んできた中村幸子さん(88)は「50年もここでやってますが、こんなことは初めてです」と、つぶやいた。

 

緊急事態宣言が発表された7日の客は2人、この日は午後3時までに4人。「お客さんは、いつも20人から多い時で30人ぐらい。ここ1週間前ぐらいから客足がばったり途絶えていたからね」とため息をついた。

 

静岡出身で早くに夫を亡くし、5人の子どもを育てるために1964年の東京五輪後から、新橋駅前に座り続けてきた。高度経済成長、バブル景気と崩壊、東日本大震災など時代の大きな流れを新橋の路上から見上げてきた。

 

正座して靴をブラッシングし、靴クリームを指先につけて直接、塗り込む。ていねいな仕事ぶりが評判で常連客から「おかあさん」と呼ばれ、愛されている。黒い靴クリームが、両手の爪、ひび割れた手の奥まで染みついている。真っ黒な手を空にかざして「いい天気だね。みんな、どこへ行ってしまったのかねぇ」と力なく笑った。【大上悟】