新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が出て、藤井聡太七段(17)は4月10日を最後に対局がなくなった。日本将棋連盟が長距離移動を伴う対局を禁止したからだ。

在宅になっても「課題修正力」を発揮。約2カ月のブランクも感じさせず、「巣ごもり」での研究成果を見せつけ、史上最年少での挑戦権獲得につながった。

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「45分の授業は5分あれば理解できる」。藤井聡太七段の能力ならぬ「脳力」を、脳科学者の茂木健一郎氏は「9倍速解析脳」と称した。

その「先読み力」のすごさは、先輩中学生棋士との対局でも披露された。昨年10月、羽生善治九段との王将リーグ。一見ボヤけた感じの後手1五金が、のちのちの羽生玉の退路をふさいでいた。同年2月、連覇がかかった朝日杯決勝では渡辺明棋王(段位、肩書は当時)が読みになかった手順を指摘。それが渡辺の唯一、勝てる手順だった。ほかの対局でも飛車の成り捨てなど、周りが疑問に思う手が、実は勝利への道筋だったことが多々あった。

もともと備わった素地に加え、小学生時代に文集で「めいじんをこす(原文のまま)」と書いた夢を実現させるための課題も理解している。デビュー直後、「形勢判断が課題」と口にすることが目立った。先輩棋士に推奨されて人工知能(AI)付きの将棋ソフトを導入した。こうして、「先読み力」に「課題修正力」が加わり、パワーアップしていった。

そんな折、コロナ禍で4月10日の王位リーグの菅井戦以降、対局がなくなった。平均5~7日に1回は行っていた対局が、2カ月近くも開いた。再開されたのは6月2日の棋聖戦挑決準決勝、佐藤天彦九段戦。53日ぶりの実戦だった。

「ブランクがあったもかかわらず、準備を怠っていませんでしたね」。佐藤天戦、続く4日の決勝対局(永瀬拓矢叡王・王座戦)の連勝劇を見た、元祖中学生棋士の「ひふみん」こと、加藤一二三・九段(80)はこう分析した。

「ウィズ・コロナ」の時代。働き方が変わるからこそ、日頃の姿勢が問われる。藤井は課題を見つけ、確実にこなす姿勢を貫いている。初の大舞台を控え、「時間の配分」という新たな課題もある。タイトル保持者相手にどう使って勝つか、苦心の日が続く。コロナ禍を経て培った、史上最年少プロの総合力がどこまで通用するのだろうか?

(おわり)

※この連載は赤塚辰浩、松浦隆司が担当しました

◆渡辺明棋聖VS藤井聡太七段の第91期棋聖戦5番勝負日程 ▽第1局=6月8日(東京・将棋会館)▽第2局=同28日(東京・将棋会館)▽第3局=7月9日(東京・都市センターホテル)▽第4局=同16日(関西将棋会館)▽第5局=同21日(東京・将棋会館)。