将棋の藤井聡太七段が8日、17歳10カ月20日のタイトル戦史上最年少挑戦記録を白星で飾った。東京・千駄ケ谷で行われた、第91期ヒューリック杯棋聖戦5番勝負第1局で午後7時44分、157手の激戦の末、渡辺明棋聖(棋王・王将=36)を下した。和装ではなく、スーツ。「平常心」で臨み、先勝した。屋敷伸之九段(48)が90年に達成した18歳6カ月という初タイトル獲得最年少記録の更新へ、好発進。28日の第2局で、藤井は和装で登場することを明らかにした。

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終盤まで優劣不明の混戦から、先手の藤井がギアを上げた。持ち時間(各4時間)をお互いに使い切り、1手1分未満での指し手が要求される「1分将棋」。間違えられない、震えるような展開で、渡辺の16手連続王手をしのぎ、タイトル戦初出場初勝利を挙げた。「勝負勝負と行けてよかった」と、ホッとした表情を見せた。

初のタイトル戦でも、いつも通り。スーツにマスク姿で盤の前に座り、お茶をひと口。「何とか集中できた」。大一番に緊張のそぶりすら感じさせなかった。

「大きな舞台で袖を通したい」と昨年から希望していた、着物とはかまは封印。挑戦者に決まった翌日の5日、師匠の杉本昌隆八段に電話で伝えたという。

平時なら、タイトル戦は地方を転戦する。前日に移動して前夜祭に出席するなどの行事が、第1局はない。この日は午前8時に集まり、対局室の照明や盤、駒の検分をしただけ。普段とほぼ変わらない場所と雰囲気で臨めた。

「流れ」も味方に付けた。新型コロナウイルス感染拡大を受け、4月10日の王位戦挑戦者決定リーグ戦以降、対局がなくなった。同17日に予定された棋聖戦挑戦者決定トーナメント準決勝は延期。ただ緊急事態宣言の全国的な解除で、6月2日の開催が急きょ決まり、4日の決勝、8日の5番勝負第1局の流れに。結果的にこれが後押しとなり、史上最年少のタイトル挑戦が実現した。

デビュー3年目、確実に力をつけている。初戦から29連勝の連勝新記録を達成した17年は、新人王戦などの若手限定戦で準々決勝が最高。18年は朝日杯で15歳6カ月の史上最年少で、全棋士参加棋戦を初制覇。昨年11月の王将戦挑戦者決定リーグでは、広瀬章人竜王(当時)との直接対決で敗れたが、タイトル戦に手の届くところにいることを証明。そしてこの日、タイトル戦初登場で初勝利だ。対局後、藤井は「何とかまず1勝できて、うれしい。次の対局もまた一生懸命臨みたい」と、語った。

28日の第2局は和装で登場する。「和服は第2局以降、着られれば」と述べた。昨年8月のJT日本シリーズで袖を通した際は敗れている。タイトル戦では初の「和服1勝」で第2局も勝てば、史上最年少でのタイトル獲得がより現実味を帯びてくる。【赤塚辰浩】