今年は各地でクマの出没が相次ぎ、目撃情報は過去最多となった昨年を上回った。石川県加賀市では10月19日、ショッピングセンターにクマが侵入、通報から約13時間後に駆除されるという騒動もあった。

クマ出没の主な要因は、餌の凶作や生息域の拡大だが、今年は特に複雑に絡み合った。餌の凶作は、梅雨の記録的な長雨による日照不足が関係している。コロナ禍で車や人通りが少なかった6月頃には、行動範囲が市街地にまで及んだ。また、17年が暖冬で餌が豊作だったため、18年生まれの1メートル級の若いクマの個体数が多く、平野部で暴れる問題も見られた。

日本ツキノワグマ研究所の米田一彦氏(72)によると、推定生息数が1978年頃の1万頭から5万頭に増加し、生息域は平均1・4倍、最大で2倍に拡大した地域もある。耕作地の放棄や狩猟者の減少も一因といえるという。

クマとの共存を目指し成果を得ている自治体もある。長野県軽井沢町では市街地の人身被害が10年間出ていない。町から委託を受けるNPO法人ピッキオでは、クマに発信機をつけ、位置の確認や個体管理を行っている。捕獲した際に「人の声・犬の声・鈴の音」を聞かせ「この音がする所では嫌なことがある」と、覚えさせてから放つ、学習放獣を行っている。また、クマが開けることができないゴミ箱を03年から設置。99年には100件以上あったゴミ箱の被害を現在は1桁台にまで減らした。一方、生息域の範囲外にクマが現れた場合には、特別な訓練を受けたクマ対策犬「ベアドッグ」と「ハンドラー(飼育兼訓練士)」が森林に追い払う。痕跡が残っていなくても、ベアドッグの嗅覚でクマがたどったルートを探索、市街地にクマが入ることを未然に防ぐことができる。

米田氏は「今年は特にクマがよく出た。もはや里の近くには常時いると思った方が良い。残暑や台風、ちょっとしたきっかけで被害は増える」と分析する。冬眠明けの被害の可能性も十分に懸念される。遭遇しないことを第一に引き続き警戒が必要だ。【沢田直人】