新型コロナウイルスの治療にあたる医療従事者や病院を支援するため、庭を歩いて約3300万ポンドの寄付を集めた退役軍人のトム・ムーアさんが3日、新型コロナウイルスによる肺炎で死去した。100歳だった。ムーアさんは1月半ばに肺炎のため入院したが、新型コロナの検査では陰性で、回復したために先月22日に退院。しかしその後、コロナの感染が判明し、31日から再入院して酸素吸入していた。英国では新型コロナのワクチン接種がすで始まっており、重症化のリスクがある高齢者のムーアさんは優先接種の対象だったが、肺炎の薬を服用していたためにワクチン接種はしていなかったという。

娘のハナ・イングラム・ムーアさんは、「最後の数時間を一緒に過ごせたことに感謝しています。子供時代の思い出や素晴らしい母のことをずっと話し、笑いと涙にあふれた時間でした」と声明を出し、最期を一緒に過ごしたことを明かした。

ボリス・ジョンソン英首相は「キャプテン・トム・ムーアは世界のヒーローだった。第2次世界大戦で自由のために戦い、我が国が戦後最大の危機に直面した時には私たちを団結させ、元気づけ、精神の勝利を体現しました」とツイートし、首相官邸に反旗を掲げた。また、エリザベス女王も遺族に追悼の言葉を贈ったと伝えられている。

新型コロナウイルスの感染拡大で英国がロックダウンされた昨年4月に、寄付を呼びかけるために歩行器を使いながら幅約25メートルの自宅の庭を100往復するチャレンジを始め、その様子がメディアで公開されると世界中から大きな反響があり、「キャプテン・トム」の愛称で親しまれてきた。昨夏にはエリザベス女王から「英国民と世界中の人々を勇気づけた」としてナイトの爵位を与えられた。

多くの国民から回復を祈るメッセージを受け取っていた娘のムーアさんは、「私たちの父の人生最後の年は、注目に値するものでした。父は若返り、今まで夢見てきたことを経験しました」と感謝の言葉を述べている。(ロサンゼルス=千歳香奈子)