自民党の二階俊博幹事長が15日、東京五輪・パラリンピック開催について中止の選択肢もあることに踏み込んだ。TBSのCS番組の収録で、新型コロナウイルス感染拡大が、さらに悪化した場合に「とても無理と言うならやめないといけない」と、政権与党の中枢から異例の否定的な見解が示された。開催まで99日と迫る中、各界に大きな波紋が広がっている。

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異例の爆弾発言に各界へ衝撃が拡散した。菅義偉首相は東京五輪・パラリンピックの開催に「新型コロナウイルスに打ち勝った証」と、前のめりの姿勢を崩していない。そんな中で二階氏は「とても無理と言うなら、すぱっと、やめないといけない」と明言した。開催可否の選択肢を示した上で「五輪で感染をまん延させたとなれば、何のための五輪か分からない。その時の判断だ」と語った。

安倍晋三前首相の約7年8カ月という長期政権を支え、昨年9月の自民党総裁選で、いち早く菅首相擁立を掲げ、無派閥の菅政権を誕生させた政界のキングメーカーの発言は重い。発言をめぐって報道は過熱し、衆院本会議から自民党本部に戻った二階氏は、即座に書面で「ぜひ成功させたいという思いだ。いろいろな準備やなすべき事を一つ一つ解決していくことが重要だ。何が何でも開催するのかと問われれば、それは違うという意味で発言した」などと釈明し、無言で党本部を後にした。

菅首相は「二階氏は開催を支える考えに変わりはないとコメントを出した。政府としても開催に向けて感染防止に万全を期す」と述べた。だが、感染再拡大が止まらない中で、東京都医師会の尾崎治夫会長は13日、開催について「非常に厳しい状況」と指摘。新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は14日に「緊急事態宣言を出す可能性について十分に検討する必要がある」と強調。専門家からは日増しに険しい状況を指摘されている。

財界からも開催反対の声が上がっている。楽天の三木谷浩史会長兼社長は7日「僕ははっきり今年の五輪開催はあまりに、リスクが高すぎると思っており、反対です」などと、ツイッターに私見を投稿している。

この日夜、菅首相はバイデン米大統領との日米首脳会談のため、渡米。このタイミングで、政権の後見人である二階発言の真意をめぐって憶測が憶測を呼ぶ。秋までに行われる次期衆院選、次期自民党総裁選への布石なのか、開催に固執する菅首相に対し、懸念の声がもれる与党内の調整や、自民党支持者にも広がる反対論に一石を投じて融和を図るものなのか。

本来、政治とは切り離されるべきスポーツの祭典だが、政局を見据え、開催可否問題は深く、「密」に絡まり合っている。百戦錬磨の二階氏の真意は計り知れないが、投じた波紋は広がるばかりだ。【大上悟】