「紀州のドン・ファン」と呼ばれた和歌山県田辺市の資産家野崎幸助さん(当時77)が18年に急性覚醒剤中毒で死亡した事件で、殺人容疑などで逮捕された元妻須藤早貴容疑者(25)が事件前、野崎さんから「離婚する」と伝えられていたことが30日、複数の知人らの証言で分かった。県警は離婚話が殺害のきっかけになった可能性もあるとみて調べている。

2人は事件の約3カ月前となる18年2月に結婚。年齢差は55歳。野崎さんは3度目の結婚だった。知人らによると、野崎さんは結婚に際し、同居することを条件に須藤容疑者に月100万円を渡すことを約束。結婚後、須藤容疑者は東京都内で滞在することが多く、同居しないことに怒った野崎さんは「早貴ちゃんとは離婚する」と周囲に話し、離婚届に署名するよう複数回、要求した。野崎さんは離婚届に判を押し、保管。須藤容疑者が署名すれば、提出するだけだったという。

結婚前に田辺市内にある神社を訪れた野崎さんは、少し離れた場所でおみくじを引く同容疑者を見ながら宮司に「結婚する」と報告。いつもポーカーフェースの野崎さんだったが、少しほほ笑んだという。知人によると、結婚後は野崎さんの自宅の2階で2人は「しょっちゅうもめていた」と証言した。別の知人は「結婚3カ月も経たず、2人の仲は冷えきっていた」と話した。

急転直下で元妻が逮捕されてから3日。和歌山県警は30日、田辺市内の野崎さん宅を再び、家宅捜索した。同日午後1時すぎ、捜査員が数箱の段ボール箱、紙袋などをワゴン車に乗せて、運び出した。県警は須藤容疑者の認否を明らかにしていないが、殺害に直接つながる証拠が乏しく、慎重に捜査を進めているとみられる。【松浦隆司】