オールドファンにとってはプロ野球ドラフト会議の会場として知られた東京・九段下のホテルグランドパレスが6月末で営業を終了する。

コロナ禍で宿泊客の半数を占める外国人観光客が消失。修学旅行など国内の団体客も激減し、売り上げが7割も減少する「過去に類を見ない経営環境」が原因だ。ドラフトで1位指名を3度も受けた江川卓さん(65)にグランドパレスの思い出を聞いた。【玉置肇、中嶋文明】

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本来なら書き入れ時のゴールデンウイークにもかかわらず、グランドパレスの館内は閑散としていた。客室フロアだけでなく、ドラフト会場だったダイヤモンドルームなど2~4階の大小20の宴会場も。

「都の要請ではホテルの宴会場はテーマパークと同じで無観客開催になっているんです。無観客の宴会場というのは意味が分からないんですが、都に連絡しても全然つながらないものですから、判断に困っているところなんです。結婚式場は酒類提供停止で夜8時まで、50人未満または50%以下で1時間半以内という要請が出てますので、それに準ずるべきなのだろうなという解釈はしているんですが…」(ホテルグランドパレス桜井朝日管理部長)。

東京五輪も影響している。グランドパレスは日本武道館まで歩いて10分弱。最も近いホテルの1つだ。「五輪に向けての準備で日本武道館でのイベントが4月で終わってしまっているんです。4月の途中から(客室の)稼働もほとんど1ケタという感じです」(桜井部長)。柔道、空手の会場となる日本武道館でのイベントは4月14、15日のBABYMETALのコンサートが最後になった。そもそも日本武道館は五輪のため19年9月から全館を休館して増改修工事に入り、イベントは昨年10月、再開されたばかりだった。

一昨年秋以降、グランドパレスは五輪やコロナに振り回され、経営環境が急速に悪化した。「外国人観光客はほぼゼロになり、日本人のお客さまも団体でのご利用がほとんどなくなってしまいました。あまりにも長期化してしまったため、施設の一部老朽化を含めて耐えられない状況になってしまいました」(桜井部長)。創業50年を目前にしての営業終了となる。「お客さまから『オレンジケーキはこれからもどこかで買えますか』とか惜しむ声をたくさんいただいております」。開業以来の人気スイーツでグランドパレスの名物だったオレンジケーキも6月末で終了する。

◆ホテル業界 東京五輪、パラリンピックの特需を見込み、開業ラッシュが続いたが、4000万人を見込んでいた訪日外国人はコロナ禍で前年比▼87・1%の411万人に急減。Go To トラベルも感染拡大を呼び、停止されたため、休業、倒産が相次いでいる。東京商工リサーチによると、20年度の倒産は127件。前年比△71・6%となっている。

◆ホテルグランドパレス 皇居前のパレスホテルの姉妹ホテルとして1972年開業。地上24階、地下5階建て。458室。73年8月、韓国の民主政治家・金大中氏が部屋から出たところを韓国中央情報部(KCIA)に拉致される「金大中事件」の舞台となった。80年に巨人監督を解任され、12年間の浪人生活を送った長嶋茂雄氏は92年10月、監督復帰会見を行っている。ボクシング世界戦の調印式、検診、計量、記者会見場としてもおなじみ。