東京オリンピック(五輪)に出場する女子ソフトボール、オーストラリア代表の強化キャンプを迎え入れる群馬・太田市が2年越しで温めていたプレゼントを用意し、6月1日に来日するチームを歓迎する。

キャンプ期間中の移動は、練習場と宿泊するホテルの往復のみに制限され、市民との交流だけではなく買い物にすら行けない。そこで市は、2年前のキャンプ時に、選手らが交流した小学生の育てた蚕からとれた生糸で作った箸袋を、地元のお土産としてプレゼントする。

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5月31日に太田市が開いた定例会見で「オージー・スピリット」のニックネームで呼ばれる女子ソフトボール、オーストラリア代表は、完全に外界との接触が持てない生活をキャンプ期間中に過ごすことになることが分かった。

万全の態勢で迎えるため、新型コロナウイルスに感染する可能性をすべて消していった。練習や試合を実施する太田市運動公園野球場も6月1日から7月17日までの47日間は他のスケジュールを完全排除して、オーストラリア代表だけの“特訓基地”となる。野球場では、市民がプレー観戦はできるが選手らの入退場の導線に入ることができない徹底的なガード態勢を敷くという。

つまり、選手にはホテルと野球場だけの生活となる。同代表チームは18年から3度のキャンプを張り、数多くの市民交流イベントを行ってきた。今回は市民との会話をする交流に関しては、インターネットを介した通信手段を選手の休養日に組んで、その際はホテル内のミーティングルームと市内小学校の体育館などを回線で結ぶ案が検討されている。

19年9月、3度目のキャンプでは太田小学校を訪問し、飼育する蚕を選手らが手のひらに乗せて触れ合う交流が実施された。これは群馬県の主力産業であった養蚕を地元の小学生に体験してもらい、蚕のマユから採種した生糸を集めてスポーツアスリートにプレゼントの品を贈るというプロジェクトの一環。オージー・スピリットには太田小学校を始め計5校の2年生が飼育した蚕から集められた生糸を原料としてつむがれた赤い箸袋が贈呈されるはずだった。

その箸袋はこの1年間、太田市役所で、しっかり管理保管されていた。市文化スポーツ総務課の清水文男係長は「群馬を代表する生糸、しかも選手と交流のあった子供らが育てた蚕からつむがれています。大事に大事に保管しておりました。選手とスタッフ33人全員にお渡しします」と実感を込める。豪州と太田市を結ぶ糸は、コロナ禍でも決して切れることはなかった。【寺沢卓】

▼太田市との関係 オーストラリアとは毎夏、小学生約100人が3週間の豪州滞在をするプロジェクトがあり、オーストラリアからも高齢者のグループが「フレンドシップ」の名称で来日し、太田市での滞在旅行を企画するなど相互の交流を深めてきた。オージー・スピリットが初めて太田市を訪れたのは2018年7月21日から12日間滞在。千葉県で開催された世界選手権の事前キャンプだった。3位までが東京五輪の出場権を手に入れられるが4位に終わった。2回目は高崎市でのジャパンカップ出場のため。同年10月27日に再来日して6日間のキャンプを張った。そして19年9月13日から9日間太田市で練習し、中国・上海での五輪最終予選を5戦全勝して東京五輪への出場権を勝ち取った。

○…太田市の定例会見のほとんどが、オーストラリア代表チームの受け入れ態勢の話題となった。宿泊費に関しては6月中はオーストラリア政府が支払い、7月分は太田市が1500万円で受け持つことが決まっている。8期目の清水聖義(まさよし)市長(79)は「五輪が終わってもオーストラリアとの関係は続ける。できれば決勝は日本と対戦して、オージー・スピリットは銀メダルで」と話した。