日大は10日、所得税法違反容疑で前理事長の田中英寿容疑者(75)が逮捕されたことなどを受け、学長で理事長を兼務する加藤直人氏(70)が東京・千代田区の大学本部で記者会見を行い、田中容疑者の「永久決別」と「影響力排除」を表明した。元理事の井ノ口忠男被告(64=背任罪で起訴)の逮捕につながった今年9月の大学本部の家宅捜索から約3カ月が経過して初の会見となった。外部有識者らによる「再生会議」新設で体制見直しを強調したが、“日大のドン”に異論を唱えられなかったことへの明確な答えは示さなかった。

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加藤氏は「田中前理事長と永久に決別し、影響力を排除します」と強い言葉で誓った。役員報酬、賞与、退職金等を支給しないことも報告。月1回で開いていた決定機関の理事会だったが、田中体制下では「理事会そのものが報告会のような形になっていた」と議論の場ではなかったことも明かした。

最大の問題として、理事会などの決議事項でのチェック機能欠如を挙げた。「田中氏の意見を優先させるような体制を築き上げてしまった。圧力をかけられたということはございませんが、大きいウエートを締めていた。私自身は怖かったことはありませんでしたけれども、他の理事はもしかしたら自主規制があったのかもしれない」。

理事の選出方法も不透明で、新メンバーで初開催する理事会まで新任者が告知されない状況もあったという。アメフト事件で18年に理事を辞任した井ノ口被告の20年の理事復帰時もそうだったという。「膿を出しきるのは体制」と組織改革の必要性を強調。来年1月に学校経営や法律などの外部有識者らで構成する「再生会議」を新設することも公表。3月までに今後の日大のあり方を検討する。

加藤氏は、冒頭で約10秒間頭を下げて謝罪した。「業務においてはビジネスパートナーだった」という田中容疑者に対し「日大130年の歴史の中で、理事長が逮捕される不祥事は初めて。伝統のある日大を汚されたことに対して恥ずかしく、憤り。なんてことしてくれたんだという言葉をかけたい」とした。今回の事件で理事全員が1日に辞表を出したが、自身は新理事長として「立て直すつもりで頑張る。今のままでは日本大学はダメ。社会から取り残されてしまう」と話した。

東京地検特捜部が背任容疑で9月に強制捜査してから3カ月を経て、初めての説明となったことに関しても謝罪。「逮捕、再逮捕、起訴と…。捜査中はまったく動けずに綿密な調査が出来ず遅れてしまった」と説明。「決別」「排除」と強い表現で出直しへの意欲を示したものの「なぜ田中前理事長の権限に反論することが出来なかったのか」という質問には、明確な答えを示せないまま、約2時間半の会見を終えた。【鎌田直秀】

○…加藤氏は度重なる不祥事による、学生や入学志願者への影響を懸念した。現4年生の就職状況については「例年に増して好成績。安堵(あんど)している」としたが、入学志願者に関しては、慎重な対応を強調した。18年にアメリカンフットボール部の悪質反則問題時には「付属高校などは(進学希望者が)3割減った」だけに「入学者選抜はかなり考えていかないといけない」と危機感を募らせた。7万人超の日本一のマンモス大学だけに、経営面でも志願者激減となれば深刻な事態だ。