スティーブン・スピルバーグ監督(75)が伝説のミュージカル映画を60年ぶりにリメークした「ウエスト・サイド・ストーリー」が公開中です。リメーク=再映画化はすっかり定着した言葉ですが、他にもリバイバル、リブート、リマスター…。「再」にまつわる映画用語はさまざまあります。作品とともに振り返りましょう。【相原斎】
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「ウエスト・サイド・ストーリー」のオリジナル版が公開された時、スピルバーグは多感な15歳でした。根底にある「愛は偏見や差別に勝る」というテーマに魅せられ、分断の時代と言われる「今」こそ、この作品には価値があるとリメークを決意したそうです。47年のキャリアで実は初めてのミュージカル映画。巨匠にとっても新たな挑戦だったのです。
最新技術を生かした縦横のカメラワークが躍動感を生み、人種やジェンダーの問題提起はより明確です。一方で、旧作のドラマ部分にあったヒリヒリするような空気はやや薄れたように思いました。撮影技術の進歩はオリジナルの世界をよりリアルに映す半面、その風合いのようなものを消してしまうことがあります。リメーク作品の評価が割れる原因といえるでしょう。
黒澤明監督の傑作「椿三十郎」(62年)を07年にリメークした森田芳光監督は「すごい重圧があります。でも、これを機会に若い人たちに時代劇に目を向けて欲しいし、黒澤作品を始め、過去の偉大な作品を見てもらいたい」と思いを明かしました。黒澤オリジナルとの比較で批判を浴びることは覚悟した上で、確信犯的な決意で撮影に臨んでいたのです。
この作品も「ウエスト-」同様に比較的忠実にオリジナル脚本をなぞっていますが、大幅に設定を変えたリメーク作品も少なくありません。
83年の「スカーフェイス」は、ギャング映画の古典「暗黒街の顔役」(ハワード・ホークス監督)を半世紀ぶりにオリバー・ストーンが脚色した作品です。当時の社会情勢を加味し、主人公をキューバから追放された犯罪者に置き換えて肉厚な作品に仕立て直しました。監督はブライアン・デ・パルマ。アル・パチーノの熱演が記憶に残りました。黒澤監督の代表作「七人の侍」(54年)は、6年後に西部開拓時代のメキシコに舞台を移してリメークされました。ジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」です。こちらも映画史に残る傑作西部劇となりました。
名優と呼ばれる人は、若き日に心動かされた作品を自分で演じてみたくなるようです。
10代の頃に、アルバート・フィーニー(74年、オリエント急行殺人事件)ピーター・ユスチノフ(78年、ナイル殺人事件)という2人の「名ポアロ」を見たケネス・ブラナーは、監督・主演でこの2作に挑みました。この25日に公開される2作目「ナイル殺人事件」でも、先輩たちとはひと味違うアクティブな名探偵ポアロが印象的です。
一方で、名作ばかりがリメークされるわけではありません。「デューン 砂の惑星」(84年、デヴィッド・リンチ監督)は、フランク・ハーバートの壮大な原作をそしゃくしきれず、ダイジェスト版のような仕上がりが不評を買ったいわく付きの作品でした。あえてこの難題に立ち向かったのがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督で、今年1月公開の「DUNE デューン 砂の惑星」はリンチ版とは対照的に高い評価を得ました。
監督や出演者の趣味の域でリメークされることもあります。ジョニー・デップの怪演が話題になった「チャーリーとチョコレート工場」(05年)はその典型でしょう。71年公開のオリジナル作品は、サイケデリックな描写に、むしろ否定的な批評の方が多かった「夢のチョコレート工場」(ジーン・ワイルダー主演)です。そのカルトな魅力がデップ=ティム・バートン監督コンビの独特なアンテナに引っ掛かり、ユニークな作品に仕上がりました。
原作イメージにもっとも近いと言われた6代目ダニエル・クレイグの007第1作「カジノ・ロワイヤル」(06年)は王道のスパイ映画と言えますが、これもリメーク作品であり、実はオリジナルはコメディーなのです。
イアン・フレミングの原作小説に初めてジェームズ・ボンドが登場したシリーズ原点がこの「カジノ・ロワイヤル」と書けば、クレイグの第1作としてふさわしく思えますが、出来たての「ジェームズ・ボンド」は、後に続いたシリーズ作品ほどキャラが定まっていなかったのです。
67年の初映画化の公開は、正統シリーズの第5作「007は二度死ぬ」と同時期で、すでに固まっていた007像をちゃかすには格好の素材だったのかもしれません。ピーター・セラーズ、デヴィット・ニーヴン、オーソン・ウェルズ、ウディ・アレン…とそうそうたる面々が競演。壮大なパロディーを繰り広げました。
リブート(再起動)はシリーズ作品に関わる用語です。過去に人気のあったシリーズに新しい解釈を加えて再スタートさせることで、いわば仕切り直しです。
この1月に公開された「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(ジョン・ワッツ監督)は17年にスタートしたシリーズ3作目ですが、2度の仕切り直しを経ています。
ソニー・ピクチャーズが映画化権を獲得して以来、サム・ライミ監督=トビー・マクガイア主演の3部作が02年にスタート。これを12年にマーク・ウェブ監督がアンドリュー・ガーフィールド主演の2部作としてリブートしているのです。
リブート作品の監督も前シリーズのファンだった人がほとんどで、「-ノー・ウェイ・ホーム」にはワッツ監督のスパイダーマン愛が満ちています。ライミ監督版、ウェブ監督版を含めた全シリーズ7作の集大成作品としてファンの熱い支持を受けました。
リブートの背景には必ず根強いファンの存在があり、「スタートレック」(79年~)「ロボコップ」(87年~)「チャーリーズ・エンジェル」(00年~)などの人気シリーズもそれぞれ09年、14年、20年からリブートされています。
■リバイバル=再上映、リマスター=画質や音声を修正、スピンオフ=人気作品の派生作
○…一から撮り直すリメークやリブートと違い、再評価を意味するリバイバルは映画用語では過去の作品を再上映することを意味します。
70、80年代までは過去の名作がしばしば再上映されていましたが、DVDや、BS・CS放送の普及に加え、近年の動画配信隆盛でリバイバル上映はイベント的なものに限られるようになりました。
イベント的上映に合わせて使用頻度が増したのが「リマスター」です。従来は原板フィルムの補修作業を指す言葉でしたが、デジタル技術の向上によって画質や音質をより現代風に仕上げることが出来るようになりました。オリジナルの味わいが失われたという否定的な見方はつきまといますが、見やすく、聞きやすくなったことは確かです。
伝説的な音楽ドキュメンタリー映画として知られる「真夏の夜のジャズ」(59年)も最新の4Kリマスター版として一昨年夏にリバイバル上映されました。
「再」が付くわけではありませんが、近年よく使われるようになったのが「スピンオフ」です。人気シリーズからの派生を意味し、「スター・ウォーズ」シリーズには「ローグ・ワン」(16年、ギャレス・エドワーズ監督)や「ハン・ソロ」(18年、ロン・ハワード監督)など多くのスピンオフ作品があります。「ハリー・ポッター」シリーズからスピンオフした「ファンタスティック・ビースト」(16年~)は、自体が人気シリーズになりました。
日本でも「踊る大捜査線」シリーズからスピンオフして「交渉人 真下正義」(05年、本広克行監督)や「容疑者 室井慎次」(05年、君塚良一監督)というヒット作が生まれています。
◆相原斎(あいはら・ひとし)1980年入社。文化社会部では主に映画を担当。黒澤明、大島渚、今村昌平らの撮影現場から、海外映画祭まで幅広く取材した。著書に「寅さんは生きている」「健さんを探して」など。学生時代に何度も通った「寅さん祭」のリバイバル上映は映画の魅力、楽しさを実感する機会になった。

