本の街として知られる東京・神保町の三省堂書店神保町本店が8日、ビルの建て替え工事のため一時閉店した。建て替え期間中は南に約300メートル離れた近くの仮店舗で営業し、25年に新店舗で再開する予定。当ビルには「いったん、しおりを挟みます」と書かれた、巨大な“しおり”が掲げられていた。

1階から6階までの売り場面積は約1000坪。扱っている書籍は140万冊に及ぶ。現店舗は81年3月に創業100周年記念事業として建設された。建設設備の老朽化が進んだために工事を行うという。同社は一時閉店を「100年先、200年先に書店という文化を残していくための挑戦」とし「第二章」へと向かう。

本店では営業最終日を彩るさまざまなイベントが行われていた。正面入り口近くには、商品の本を高く積み重ねる神保町本店名物「タワー積み」が展示されていた。本店で最も売れた、故外山滋比古氏の「思考の整理学」(ちくま文庫)と、22年本屋大賞を受賞した逢坂冬馬氏の「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房)のツインタワーが立っていた。伊坂幸太郎氏や恩田陸氏ら作家83人の選書が並べられているコーナーや、来客が本店への感謝や思い出を伝えるメッセージカードも掲示されていた。

午後8時、長い歴史に幕を閉じた。一時閉店セレモニーに登場した代表取締役社長の亀井崇雄氏は「本にしおりを挟むのと同じように、また物語を再開するために必要なステップです」と述べると、集まった来客からは拍手が湧き起こった。

営業最終日のこの日は多くのファンが訪れ、一時閉店を惜しんだ。近くに住むという50代の男性は「小学生の時から行きつけだったので寂しくなる」と懐かしむ。編集の仕事をしているという40代の会社員女性は「品ぞろえがよくて資料を探すのに大変助かっていました」。漫画で日本史が学べる本を母親に買ってもらった小学6年生の男子児童は「本が好きで頑張ったご褒美はここで買ってもらっていました」と笑顔。シンガポールから留学している女子大生は「忙しそうなのに店員さんが丁寧に対応してくれた」と話した。多くのファンと書店の間には、それぞれの物語があった。【沢田直人】