新型コロナ禍対策として住民税非課税世帯等に給付される臨時特別給付金10万円をめぐり、山口県北部にある阿武町(あぶちょう)が、対象の463世帯相当分の計4630万円を誤って1世帯に振り込み回収できなくなっている問題で、町は12日、その世帯の男性(24)を相手取り、全額の返還を求めて山口地裁萩支部に提訴した。この日の臨時議会に、不当利得の返還請求訴訟を起こす議案を提出し可決。弁護士費用や調査にかかった実費も含めて、約5116万円の支払いを求めている。

町によると、4月1日に対象の463世帯と、その振込先を記録したフロッピーディスクを金融機関に提出し、正規の手続きをした。ところが、同6日には職員が、男性の1世帯だけが記載された振込依頼書も金融機関に提出。金融機関は同8日、男性を含む全463世帯の指定口座に10万円ずつ振り込み、男性には別に4630万円も振り込んだ。振込依頼書を提出した職員は、手続きに必要な書類と勘違いしたという。

町は、同8日午前、振り込み後に金融機関から確認があり、事態を把握。ただちに男性宅を訪問し、謝罪し返還を求めた。男性は返還の手続きに同意し、当日、職員とともに本人の取引銀行に移動したが、入り口で「今日は手続きしない」と拒否した。実際には男性は、同8日から多額の引き出しを始め、ほぼ毎日、金を動かして約2週間で振り込まれた口座からはほぼ金がなくなっていたという。

同10日には、男性から「弁護士と相談する」との電話連絡があった。町は他市在住の母親にも説得を依頼。同14日に萩市内の男性の勤務先で母親とともに面会したが、男性は役場の非を述べ、弁護士と話すとしたという。同15日には男性の弁護士から町側の弁護士に対し「近日中に手続き行う。日時が決まったら知らせる」との連絡があった。

その後連絡がなかったため、町側が同21日に男性宅を再三訪問し会えたが、男性は返還を拒否。「もうすでに入金されたお金は動かしている」「もう元には戻せない」「どうにもできない」「逃げることはしません」「罪は償います」などと話し、使途などについても説明を拒んだという。以降は、連絡が取れてない。町によると、男性は他から移住してきた人で1人暮らし。既に仕事も辞め、自宅にも不在のもようで、行方がつかめていないという。

花田憲彦町長は、役場の誤りを謝罪しつつ「大切な公金。今からでもいいので返してほしい」などと訴えている。

◆阿武町 日本海に面し、萩市に隣接。人口3089人、1528世帯(22年3月末現在)。面積約116平方キロ。農林水産業が中心。