将棋の最年少5冠、藤井聡太王位(竜王・叡王・王将・棋聖=19)が豊島将之九段(32)の挑戦を受ける、「お~いお茶杯第63期王位戦7番勝負第1局」が28、29の両日、愛知県犬山市「ホテルインディゴ犬山有楽苑」で行われ、121手で先手の豊島が先勝した。開幕黒星スタートの藤井は、叡王、棋聖に続く、本年度3つ目の防衛戦で3連覇を目指す。無冠返上を期す豊島は4期ぶりのタイトル奪還を狙う。第2局は7月13、14日に札幌市で行われる。

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国宝「犬山城」を臨むホテルでの「犬山決戦」。終盤、藤井が苦しげな表情を見せた。「攻め込まれて、かなり怖い展開が続いていた」。相手の猛攻に何度も額に右手を当てた。

1日目、豊島が角換わりの戦型に誘導し、主導権を握った。深い事前研究を思わせる激しい攻めに大量の時間を投入し、受けに回った。2日目午前、豊島が正確な指し回しでリードを広げ、緩みのない攻めにジリジリと追い詰められ、持ち前の終盤力を封じ込められた。

2日目午前の反転攻勢に打って出た一手に藤井は「後手7五歩(84手目)のところで、もっと違う手でがんばらないといけなかった。負けにしてしまっているなと思った」と悔しそうに振り返り、完敗を認めた。

これで豊島との公式戦の対戦成績は13勝11敗。直近、2連敗となった。両者は昨年、王位戦、叡王戦、竜王戦と3つのタイトル戦を戦い、藤井がすべて勝利した。竜王と叡王を持っていた豊島は無冠に転落した。かつて藤井の“ラスボス”と言われた豊島は心機一転、“藤井対策”の研究を深めてきた。

本格派の居飛車党である2人は人工知能(AI)の研究を深く取り入れている。年齢はほぼひと回り違うがともに愛知県出身で、好きな戦国武将は織田信長。ともに鋭い終盤力を持つ。対戦成績では藤井がリードしたが、戦いは紙一重。2人の格付けは、まだ決まっていない。

藤井の師匠・杉本昌隆八段(53)は言う。「棋士の場合、棋士寿命は長い。1年、2年で格付けができるものではない。まだまだ2人の戦いは続く」。豊島の先勝で幕を開けた7番勝負。19歳の5冠の前に再び、「強敵」が現れた。全8冠制覇の道程は過酷だ。【松浦隆司】