自民党の安倍晋三元首相が8日午後5時3分、奈良県橿原市内の病院で死去した。67歳だった。安倍氏は同日午前11時半ごろ、参院選の街頭演説を行っていた奈良市の近鉄大和西大寺駅前で、背後から銃撃された。心肺停止の状態で救急搬送されたが力尽きた。奈良県警は殺人未遂容疑で元海上自衛隊員の職業不詳山上徹也容疑者(41)を現行犯逮捕した。
安倍氏は、父に岸信介元首相、父に安倍晋太郎元外相を持ち、同氏の二男として生まれた。成蹊大法学部政治学科を卒業後、南カリフォルニア大政治学科に2年間留学。79年に神戸製鋼所に入社し、ニューヨーク支社などに勤務した後、82年に退社した。
父の秘書などを務めた後、父が91年に急死したことを受け、地盤を引き継ぎ、93年に38歳で山口4区から衆院選に出馬し、初当選した。00年7月には、第2次森内閣で官房副長官を務め、03年には自民党幹事長となり、05年に第3次小泉改造内閣で内閣官房長官として初入閣を果たした。
06年9月には戦後最年少の52歳で第90代首相になったが、翌07年に潰瘍性大腸炎による体調不良などで辞任した。
11年8月には、当時、野党だった自民党総裁選に出馬の意向を示し、同9月の総裁選では、決選投票で石破茂氏を逆転し、総裁に選出。翌12年12月の衆院選で自民党が圧倒し、与党に復帰したことを受け、第96代内閣総理大臣に選出され、吉田茂元首相以来2人目、戦後の日本国憲法下では初めて首相に再就任した。
第2次政権下では、東京オリンピックの誘致、憲法改憲などに強い意欲を見せ、18年10月2日の内閣改造で、大叔父の佐藤栄作元首相の9回を上回る、最多10回目の組閣を行った。19年9月11日にも内閣改造を行い、通算組閣回数は11回に延びた。
また19年11月20日に首相通算在職日数が2887日となり、桂太郎元首相の2886日を抜き、歴代最長となった。さらに、20年8月24日に連続在職日数が2799日となり、佐藤栄作元首相の2798日を抜き、歴代最長となった。
20年8月28日には、潰瘍性大腸炎による体調不良で、辞意を発表。同9月16日の閣議で総辞職した。第1次政権を含めた通算在任日数も、憲政史上最長3188日に上った。ただ、政権末期の18年に森友学園への国有地売却問題、加計学園の獣医学部新設に関わる問題が取りざたされた、さらに19年の参院選前には、金融庁の審議会で老後に資金が2000万円必要との報告書が作成されたことも大問題になった。また17~19年に開催された「桜を見る会」前日に後援会が主催した夕食会で、会費で賄えなかった差額を安倍氏側が穴埋めしたとされる問題など、相次いで疑惑も噴出していた。
21年11月には、自民党細田派の細田博之会長が党本部で開いた派閥幹部会合で、自身が10日召集の特別国会で衆院議長に就任するのに伴い会長職を退き、後任に安倍氏を推す意向を表明。安倍氏は同11日の派閥総会で会長に就任し「安倍派」が誕生していた。
◆安倍元首相襲撃を巡る8日ドキュメント
▼午前10時5分 安倍氏が羽田発の航空便で大阪(伊丹)空港に到着
▼午前11時10分ごろ 奈良市の近鉄大和西大寺駅前で自民党候補の街頭演説始まる
▼同19分 安倍氏が駅前に到着
▼同30分 演説スタート。直後に撃たれる
▼同31分 消防に通報
▼同32分 奈良県警が殺人未遂容疑で山上徹也容疑者を現行犯逮捕
▼同37分 救急隊が現場到着、心肺蘇生措置
▼同54分 現場から搬送
▼午後0時9分 ドクターヘリに収容
▼同21分 ドクターヘリで奈良県橿原市の県立医大病院に到着。ストレッチャーで搬送される
▼午後3時59分 実弟の岸信夫防衛相が記者団に「回復を祈っている。輸血を含めて救命治療に全力を尽くしているところだ」
▼午後4時55分 昭恵夫人が県立医大病院到着
▼午後5時3分 死亡を確認
▼午後6時10分 県立医大病院が会見。死因は失血死とみられ、心臓に大きな傷があったと明らかに。治療に当たった医師は「残念ながら心拍は再開しなかった」
▽安倍晋三氏の年表
◆1954年(昭29)9月21日 安倍晋太郎元外相と、岸信介元首相の長女洋子さんとの間に東京で生まれる
◆77年 成蹊大学法学部政治学科を卒業
◆79年 神戸製鋼所に入社
◆82年 神戸製鋼所を退社、父晋太郎氏の秘書官に
◆87年 森永製菓社長令嬢の昭恵さんと結婚
◆91年 父晋太郎氏が急死
◆93年 衆院選に初出馬し初当選
◆00年 内閣官房副長官に就任
◆02年 小泉首相訪朝に同行
◆03年 自民党幹事長に就任
◆06年 小泉総裁の任期満了に伴う自民党総裁戦に出馬。麻生太郎氏、谷垣禎一氏を破り、総裁となり、戦後生まれで初の首相に就任
◆07年 参議院選挙で自民党が議席を減らし、9月に健康問題を理由に突然の辞任
◆12年 9月の自民党総裁選で石破茂氏を破って総裁に返り咲き。年末の衆議院選挙で自民が大勝し、2度目の首相の座につく。経済政策は「アベノミクス」と命名され、翌13年の流行語大賞トップ10に
◆13年 IOC総会で東京五輪誘致の演説を行う
◆16年 リオデジャネイロ五輪閉会式で次期開催国PRに「スーパーマリオ」の姿で登場するサプライズ演出
◆17年 森友学園問題発覚。加計学園問題とともに「モリカケ問題」として野党から追及される
◆19年 首相通算在職日数で歴代最長に。一方で、桜を見る会の問題が勃発
◆20年 新型コロナ対策の一環で配布した布製マスクが批判され「アベノマスク」と呼ばれ、この年の流行語大賞のトップ10に入る。9月に持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、2度目の辞任
◆アベノミクス 2012年12月に発足した第2次安倍政権の経済政策の通称。「アベ」と「エコノミクス(経済学)」を組み合わせた造語。日銀による大規模な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を促す成長戦略を「三本の矢」と銘打ちデフレ脱却を掲げた