人口1万8773人の富山県上市町(かみいちまち)が、東京ドームで開催中の第93回都市対抗野球大会に沸いた。20日の1回戦に、上市町を拠点とする「ロキテクノ富山」が初出場。富山県内の旅行会社「富山地鉄サービス」が企画した応援バスツアーでは、バス4台108人、チーム関係者や家族用バス3台を加えた計7台が前日19日夜に出発して駆けつけた。企業が3500セットを用意した黄色いTシャツ、タオルマフラー、マスクを身に着けた大応援団が3塁側スタンドを埋め、黄色く染めた。

バスツアーの参加料は3000円と格安。町が約500万円を応援費用に計上したことで、1人につき旅行代金1万7000円を助成した。コロナにより、声を出しての応援は出来ないが、応援リーダーがマイクを使って発する「フレー、フレー、か・み・い・ち」「やっぱり富山だ、NO・1」などの応援の声に、感動で涙を浮かべる町民もいた。

ツアーに参加した同町在住の渡辺恭子さん(68)は「孫4人が高校などで野球をやっているので球場にも応援に行くが、東京ドームの雰囲気はすごい。町にこういうチームがあることは野球をやっている子どもたちの目標にもなる」と感激。若林義則さん(75)も「生で見ると迫力があった。一体感も感じた。ロキテクノの選手がプロに行ったり、子どもたちにに指導してくれたりしたら、もっと町は活性化する」と願った。

上市町議の酒井桂之さん(79)は「北アルプスの山の麓にある自然豊かな町。町おこしにもつなげられたら」と期待感を高めた。これまで、ロキテクノの企業やチームの存在は知ってはいたが、深い連携があったかと言えばそうではない。「初めて北信越で優勝してくれたことで、こういう機会をくれた。今後、議会、役場、町民、企業が交流を図っていく出発点だ」と語気を強めた。

初回に3安打で1点を先制すると、総立ちで拍手を送った。5回裏に逆転2点本塁打を浴びると、天を仰ぐ町民の中から「まだまだ~」の声も上がった。東京富山県人会連合会の関根綾子さんらは北アルプスをイメージした被り物を作成し、仲間や都内のアンテナショップの客にも応援を募って盛り上げた。大相撲の朝乃山も支援する東京朝乃山後援会のメンバーでもあり「今までは高岡市の伏木海陸運送が都市対抗に出ていたので、上市町の方たちは『まさか、うちの町から』と驚いていると聞いた。富山県はこの夏、野球も相撲も大変なことになっています」。試合は1-3で惜敗したが、「次は名古屋場所に行きます。13日目に三段目優勝が決まりますから」と故郷のスポーツ熱への喜びに満ちていた。

クラブチームだった15年にチームのアドザイザーを務めた野球解説者の与田剛氏(56)もタオルマフラーを振りながらスタンドで応援した。「球界のために盛り上げてくれている。こういうチームが増えてほしい」と大舞台に立ったことを評価。「みんなで作りあげるチームであってほしい。応援しています」とさらなる飛躍にも期待を寄せた。

チーム、企業、町にとっても、すべてが初体験だった。チームは元プロ野球阪神タイガースなどで投手として活躍した藤田太陽監督(42)を中心に大善戦。21年に社会人チームとして登録後も専用球場はなく、工場敷地内に室内練習場やトレーニング施設を新設して、社業と両立する環境の中でも都市対抗出場まできた。企業も吹奏楽やチアリーディングの外部応援を急きょ締結し、応援グッズを含めてスタンドの盛り上がりをアシスト。町も選手名鑑などを作成して事前に全戸配布したり、地元ケーブルテレビで選手紹介コーナーを設けるなど尽力した。

上市町の生涯スポーツ班担当者は「上市町はムヒで有名な池田模範堂の工場があるなど薬の町。百名山の剣岳もあって、大岩山日石寺、眼目山立山寺など寺院も多い」と説明。「ロキテクノ富山が町の新たなシンボルとなって戦ってくれる姿を見た。今後はこちらもいろいろな取組を考えていきたい」。少年野球教室や、祭などのイベント交流などを含めて交流を深めながら、町全体を活気づかせる機運も高まった「初出場」となった。【鎌田直秀】