「村神様」ならぬ「村神郷」が地名の起源として語り継がれている場所がある。千葉県八千代市の村上地区だ。

プロ野球新記録1シーズン61本塁打に挑むヤクルト村上宗隆内野手(22)の姓と同じ「村上」在住市民らも、神がかったかのような偉業達成を祈っている。同地区では「村上の神楽」の祭事に加え、「村上神社」バス停があるなど、まさに“村神”が守り神!?

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八千代市立郷土博物館の資料によれば、最も古い「むらかみ」の記述は、平安時代の書物「和名類聚抄(わみょうるいじゅうしょう)」に記されている「下総国印旛郡村神郷」と考えられている。上谷(かみや)遺跡住居跡から発掘され、同館に展示の「人面墨書土器」(高さ約29センチ最大幅約24センチ)表面にも、「印旛郡村神郷」の地名や「延暦十年」の日付の文字と、人の顔が描かれている。

村上地区の七百餘所(しちひゃくよしょ)神社では、毎年1月15日と10月9日に、神を招いて舞を踊る「村上の神楽」(市指定民俗文化財)が行われる。まさに“村神様”の祭りと言えそうだ。

同神社から北に50メートルほどの場所には東洋バス(本社・千葉市花見川区)の「村上神社」バス停がある。実は「村上神社」という神社は近くにはない。バス停近くに住む60代男性は「もともとは七百餘所神社の鳥居前にする予定だったが、カーブが急で危ないので直線の場所に移したと聞いた。名前も『七百餘所』が読みにくいから地名の村上に変えたと聞いている」と、村神様に“縁”のバス停名の誕生秘話を明かした。

村上地区は梨畑が一面に広がり、約25軒の梨農家がある。バス待ちをしていた80代男性は「3冠王もかかるけれど、勝負を避けるのは、なし(梨)にしてほしいよなあ。ガハハハハ」と、ダジャレも味わい深かった。佐倉高で長嶋茂雄氏の後輩でもある丸新梨園の宮崎弘さん(76)も、今年は「村神様」を信仰している。「応援するのは、やっぱり長嶋先輩、巨人です。最近はロッテも。でも同じ『村上』で愛着が出ている。バレンティンを超す61号まで打ってほしい」。国道16号を挟んで校舎を臨む八千代松陰高出身の長岡秀樹内野手(20)を含めた活躍に期待を寄せた。

「村上」駅を有する東葉高速鉄道(本社・千葉県八千代市)は、公式ツイッターで「当社も勝手ながらお祝いさせていただきます」などと発信。ファンからのSNSや社内からも、駅名入り記念切符などのコラボグッズ待望論が浮上しているという。【鎌田直秀】

◆千葉県八千代市村上 八千代市東部の町名。印旛沼から南に流れる新川沿いに広がる。近隣には古墳、遺跡があり、旧石器時代の約3万年前から人が住んでいたとされる。1976年(昭51)入居開始の村上団地建設以降に住宅増加。96年4月の東葉高速鉄道開業により、商業施設やマンション建設も進んだ。梨が名産。「下総国印旛郡村神郷」が地名の起源。多くのほこらを建てて神を信仰していたことから「村神」となったと伝わり、神社も多い。北隣の「米本」には、戦国時代に米本城があり、城主が村上綱清という武将だったとも伝わる。