国土交通省が9月20日に発表した22年7月1日時点の「都道府県地価調査」で、住宅地における基準地価の全国平均変動率が1991年(平3)以来31年ぶりの上昇となった。全国2万1444地点が対象の中、東京圏では茨城県つくばみらい市が上位3地点を独占。昨年の同市内の変動率は高い地点で3・6%(東京圏3位)だったが、一気に10・8%まで跳ね上がった。人口約5万人の小さな市が、なぜ人気の街となっているのか-。小田川浩市長(55)に聞いた。

つくばエクスプレス(TX)「みらい平駅」前には大型スーパーを有する商業施設があり、周辺には住宅の建築も進んでいる。先日に、約100戸を売り出した一戸建ても、8割以上が売却済みだという。小田川市長は「どちらかというと、みらい平はあとから選ばれたんです。TXの他の駅のキャパがいっぱいになって、値段が安いつくばみらい市に」と冷静に分析する。千葉県の流山市、柏市、茨城県の守谷市、つくば市のTX駅周辺エリアが飽和状態になりつつある中、「やってきた施策が合致したのも要因に含まれていると思う」と手応えを得ている。

「子育てと教育には、お金と人を使っています」。出産時に、これまでは市内に産婦人科医院が存在せず、隣接のつくば市や守谷市などで出産するしかなかった。だが、ふるさと納税で「みらい子ども基金」を集め、病院新設資金として5000万円を補助。病院新設に手を挙げた医師により、産婦人科医院の誘致に成功した。「新設は県内でも約10年ぶりなんです。妊娠サポートシステムも築いてきた。20代から40代の子育て世代が多いので安心につながる」。ウクライナ情勢によって資材や医療機器の調達遅れがあり、今年度予定の開業は23年度に変更された。すでに、開業する医師が定期的に同市を訪れ、妊娠セミナーなどを開くなど、事前準備は着実に進んでいる状況だ。

昨年8月には駅から約50メートルの位置に市民センターをオープン。市役所の出張所だけでなく、子育て支援窓口「おやこ・まるまるサポートセンター」も新設した。いつでも相談出来るスタッフを常駐している。1階には高齢者から要望されていた郵便局も誘致した。親子で娯楽を共有出来る「子育て支援室」は市内8カ所に広がり、土日利用も網羅。出張支援も行っている。

転入者が増えただけでなく、転出も減っている。人口増も、8月末時点の年間集計で、4年前の157に対し、今年は812。5倍をはるかに超える数字が人気上昇の証し。「過去には外に向けて移住定住ピーアールをしていたのですが、私が市長になって市民に向けたシティープロモーションに変えていったんです」。18年の就任以降、「100年愛される地元をつくろう」のキャッチフレーズで、市の魅力を市民に発信する「I LIVE IN TSUKUBAMIRAI」の取り組みを進めた。

「自分の住んでいる街がどんなところかを分かって、好きになってもらいたかった」。もともとの在住者、移住者問わず、100世帯以上の市民の協力を得て、自身の生活体験から街の魅力や現況を、ユーチューブ動画やSNS、広報誌などで発信を続けている。「感性の豊かな市民の方々が口コミを含めて、いろいろな方法で伝えてくれることで、移住も定住も増えている効果が上がっていると思います」。自治体と市民が一致団結した街づくりが、「住みたい街」の価値も上昇させている。【鎌田直秀】

◆茨城県つくばみらい市 06年3月27日に伊奈町と谷和原村が合併して誕生。茨城県かすみがうら市や鹿児島県いちき串木野市と並び、日本一文字数の多い市名。つくばエクスプレスみらい平駅から終点秋葉原駅まで約40分。江戸時代の探検家・間宮林蔵の出生地。鬼怒川と小貝川流域には「谷原三万石」でも知られるコシヒカリの稲作地帯が広がる。ゴルフ場や畑も多く、みつば、サラダほうれん草、ブドウ、トマトなどが名産。人口5万2905人、2万1923世帯(9月1日現在)。

■地域住民も満足

移住の地につくばみらい市を選んだ市民も満足していた。昨年に、今回の土地価格上昇率1位となった陽光台地区のマンションを購入して埼玉県川口市から転入した三平紗矢香さん(31)は「子育てのしやすさはとても感じています。道路もきれいで、歩道も広い。川などもなくて災害も少なそう」。3年前に隣接するつくば市から転居した横関千尋さん(31)も「つくばや守谷に比べると価格がかなり安い。都内を含めたアクセスもしやすいですし、のどかな環境も子どもがのびのびと過ごせる」と、息子2人と一緒に子育て支援室で遊びながら笑顔があふれていた。

■「不動産ソムリエ」深澤朝房氏が解説

日本唯一の「不動産ソムリエ」で「Mr.ディープ」の異名を持つサンフェル深沢朝房社長が、31年ぶりの住宅地基準地価上昇率アップを解説した。

-なぜバブル期以来となる上昇となったのか

「ここ3年くらい新型コロナの影響で、戸建てのニーズが向上している。テレワークの増加で、会社に毎日行く必要がなくなった企業が多いことが、もっとも大きな理由」

-どのような条件が求められているのか

「都内が悪いわけではないが、ヤクルト村上宗隆選手のオープンハウスのように、マンションでも最低1億円くらいはかかってしまう。住宅ローンを組んでも月30万円くらい。給料、収入が上がっていない中で、年収1000万円だとしても払えない。そういうこともあって都市機能や生活環境の利便性、教育環境なども含めた場所を考える。私は若い時の住宅購入を提唱しています。25歳で買えば35年ローンが60歳で支払いが終わる。年金を貯金にまわせる。都内だと定年後に固定資産税が払えなくなってくるんです。3000万円くらいの戸建なら月10万円以下で済むし、購入しやすい」

-具体的にはどんな場所が人気なのか

「茨城、千葉、埼玉、神奈川、山梨などで、1時間くらいで都内に行けるところですね。そういう意味でも、今回上位のつくばみらい市は、つくばエクスプレスで都心へのアクセスが便利で、住宅地や若い子育て世代の生活環境整備、高速道路のインターなど、名前の通り未来を感じるので支持を得ている。買う方が多いと土地の値段が上がります」