東日本大震災からまもなく12年。「忘れない 3・11 あれから12年」と題し、震災と向き合った人びとの現在、過去、未来をリポートする。

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岩手県釜石市の缶詰メーカー「岩手缶詰」が東日本大震災の経験を元に開発した、災害時のおいしい主食となる、ポップな外観のリゾット缶が「カワイイ」と話題になっている。

岩手缶詰は戦時中の1941年(昭16)に県内缶詰製造6社の合併で創業。岩手産の魚介類にこだわって缶詰を製造してきた。2011年3月11日の東日本大震災では、宮古市にあった工場が津波で全壊した。

リゾット缶詰を企画した岩手缶詰の阿部常之営業課長(41)は当時の状況について「工場周辺に缶詰が散乱したそうです。その缶詰で命をつないだ住民がいたと聞きました。缶詰の備蓄は被災時に役立つとピンときた」と振り返った。

震災以降、阿部さんは災害時に缶を開けてすぐ食べられる主食の缶詰め開発に没頭。「お米を使っていろいろ試した。でも、常温では硬く、おいしくない」。試行錯誤の中で、数年前に玄米に注目。「玄米を使ってリゾットにすると常温でうまかった」。20品を超える試作を経て、現在の商品が完成。災害時の停電、断水にも対応できる自信作ができあがった。

岩手缶詰の熱心な取り組みに、広告代理店の博報堂から「贈答用になる備蓄品」としての共同開発の提案を受けた。阿部さんは「贈答と備蓄は別物という認識。そんな発想なかった。ラベルをパステルカラーの簡素なものにして『Gift&Stock』(贈答と備蓄の意味)を商品名とした」と話す。

昨年6月から道の駅を中心に販売。30~50代女性が主要購買層となり「ラベルがポップでキュート」「オシャレな缶詰ですね」などの感想が寄せられ、売り上げも順調に伸びた。今年2月までに約1万5000缶が売れる大ヒットとなった。そして昨年12月、新東北みやげコンテストで最優秀賞を獲得した。

岩手缶詰はこれまで魚介類しか扱っていなかった。阿部さんは「岩手は農業県なので野菜や肉での主食缶も挑戦します」と新たな備蓄缶詰構想を口にした。【寺沢卓】