統一地方選の前半戦は9日、投開票される。9道府県の知事選で唯一、自民党系が苦戦を強いられているのが奈良県知事選だ。

6人が乱立する中、現職荒井正吾氏(78)と新人の平木省氏(48)の自民系2人が争う保守分裂で支持票が割れ、情勢調査では日本維新の会、山下真氏(54)の「漁夫の利リード」が伝えられる。保守分裂を招く一因となったのが、地元選出の高市早苗経済安全保障担当相(62)の動きだった。

自民は前回まで荒井氏を支援したが、現在4期目。昨年9月に県連会長に就任した高市氏は、事前の世論調査内容を踏まえ、荒井氏以外の候補者の擁立に着手。荒井氏の態度表明前に、高市氏の総務相時代に秘書官を務めた平木氏が昨年末、出馬表明した。地元関係者によるとこの間、高市氏本人から荒井氏に知事選に関する働きかけはなく、荒井氏は不信感を募らせた。

「出れば保守分裂。悩みに悩んだ」(陣営)荒井氏は、元参院議員。上京し旧知の党幹部に相談すると「出るべきだ」と背中を押す声もあり今年1月4日、無所属での出馬表明に踏み切った。高市氏の動きにどうしても納得できなかった側面も大きかったという。

党本部は2人のどちらにも推薦を出さなかった。高市氏に判断が一任され、県連推薦となった平木氏は「経験を積んで、いつかは奈良に戻ろうと思って仕事をしてきた。戦う相手ではなく、私がどんな未来を開くかが問われる」と訴える。

告示後、一度も応援に入っていなかった高市氏は7日夜、「起死回生のSho Time」と題した平木氏の総決起大会に、初めて応援に入り「1位の維新とは数ポイント差。今日と明日でひっくり返せる状況だ」と、支持拡大を訴えた。

一方、荒井氏は支持基盤の分裂で、後援会組織は半分以下に激減。大規模集会も開けなかった。選挙戦では連日、少人数の集会を数多くこなし、リニア中央新幹線の新駅を県内に確定させることを「最後の願い」と説く。陣営幹部は「厳しい選挙だが、ネバーギブアップです」と口にした。

生駒市長を3期務め、弁護士でもある山下氏は、15年知事選に出馬して荒井氏に惜敗し、2度目の挑戦。もし今回勝てば大阪以外で初の「公認知事」誕生となり、維新は自民の「内輪もめ」をよそに幹部らが続々応援に入り、力の入れようは半端ではない。山下氏は「私が知事になれば民間の感覚を取り入れ、奈良県政は大転換する」と訴える。

保守王国の奈良で起きた、自民分裂の知事選。結果は、行政文書問題で揺れた高市氏の足もとを再び揺るがす事態になりかねない。【中山知子】