新潮社は10日、3日後の同13日に6年ぶりとなる書下ろし長編小説「街とその不確かな壁」(2970円、税込み)を刊行する、作家の村上春樹氏(74)の「著者メッセージ」を発表した。

「コロナ・ウィルスが日本で猛威を振るい始めた二〇二〇年の三月初めに、この作品を書き始め、三年近くかけて完成させた。その間ほとんど外出することもなく、長期旅行をすることもなく、そのかなり異様な、緊張を強いられる環境下で、日々この小説をこつこつと書き続けていた。まるで<夢読み>が図書館で<古い夢>を読むみたいに。そのような状況は何かを意味するかもしれないし、何も意味しないかもしれない。しかしたぶん何かは意味しているはずだ。そのことを肌身で実感している。村上春樹」

「街とその不確かな壁」は、17年2月刊行の「騎士団長殺し」(第1部顕れるイデア編、第2部遷ろうメタファー編)以来6年ぶりとなる、原稿用紙1200枚に及ぶ書き下ろし長編小説。村上作品の長編小説では初めて、電子書籍で同日、配信される。同社は

「その街に行かなくてはならない。なにがあろうと--〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された「物語」が深く静かに動き出す。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上文学」

と作品について説明した。

◆村上春樹(むらかみ・はるき)1949年(昭24)1月12日、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年「風の歌を聴け」(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に「羊をめぐる冒険」(野間文芸新人賞)「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」(谷崎潤一郎賞)「ノルウェイの森」「国境の南、太陽の西」「ねじまき鳥クロニクル」(読売文学賞)「海辺のカフカ」(世界幻想文学大賞、ニューヨーク・タイムズThe 10 Best Books of 2005)「アフターダーク」「1Q84」(毎日出版文化賞)「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」などがある。「神の子どもたちはみな踊る」「東京奇譚集」などの短編小説集や「村上春樹 雑文集」「ポートレイト・イン・ジャズ」などのエッセー集、「辺境・近境」などの紀行文、カーヴァー、サリンジャー、カポーティ、フィッツジェラルド、マッカラーズの翻訳作品など著書・訳書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、スペイン芸術文学勲章、2011年カタルーニャ国際賞、2014年ヴェルト文学賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞、2022年チノ・デルドゥカ世界賞(フランス)を受賞。