世界的に観測史上最も暑くなった今年の夏。国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。氷河や永久凍土も急速にとけており、未知のウイルスなどが現れる可能性を指摘する研究者も増えています。どういうことなのか-専門家に聞いてみました。

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【永久凍土】 温暖化による永久凍土の融解によって、閉じ込められていたウイルスなど病原体が放出される可能性を心配する科学者や研究が増えています。「パンドラの箱」や「感染症の時限爆弾」などと比喩されることもあります。例えば、太古の線虫が覚醒した研究が発表された同じ日、欧米豪の国際研究チームが米オンライン科学誌プロス・コンピューテショナル・バイオロジーに「タイムトラベルする病原体と、生態系コミュニティーに対するそれらのリスク」という論文を発表。「氷河や永久凍土の融解が前例のない速度で進み、氷の中で休眠していた多くの微生物が再び出現する具体的な機会が与えられている」とし、それら病原体が現代社会に定着するリスクをシミュレーションした結果「多くの病原体は生き残り、進化し続ける可能性があり、3・1%は侵入した新しい環境内で優勢になった」などと指摘しています。

「感染症の時限爆弾」はSF物語の世界ではなくなっているのでしょうか。土の研究者として知られる、森林総合研究所の藤井一至(かずみち)主任研究員に聞きました。

-そもそも永久凍土って、何ですか

連続して2年以上0度未満の土を指します。地球の全陸地面積の約15%にあたり、日本でも立山や富士山や大雪山などでも少し見つかっています。北極圏など寒いところにありますが、雪が多いと土は凍りません。低温かつ乾燥が条件で、カナダやシベリアでは地下200メートルくらいまで凍っているところがあります。

-温暖化で極地にどんな影響が出ていますか

温暖化は極地ほど急激に進んでいます。私が調査したカナダ北西のイヌビックでは過去50年間に気温が約3・5度上昇しました。地球全体では0・7度くらいの上昇といわれます。永久凍土には世界中の土壌にある有機物の約4割が埋もれているとみられ、とけると分解が始まって二酸化炭素が出ます。メタンガスもあり、それらが温室効果を高めて、またとかします。

永久凍土や泥炭は乾燥すると雷で燃えやすくなるので、カナダなどで山火事が増えています。また、北極の氷はあと数十年でなくなるといわれています。南極の氷河と違い、海氷がとけても海面上昇は大して起こりません。それでも、永久凍土のとけたもろい陸地が侵食され、海から約100メートル内陸だったのに、波があたるようになったところもあります。

-現代人にとって未知の病原菌などが目覚めるのではと心配されています

永久凍土には氷河期の動植物や、それを分解する微生物などが閉じ込められています。人々の墓地にもなっています。遺体から鳥インフルエンザのようなウイルスが見つかったり、トナカイの死体から炭疽(たんそ)菌が拡散したり、未知のウイルスも見つかっています。しかし永久凍土だけでなく、私たちの足元の土のことも全部分かっているわけではありません。大さじスプーン1杯(約10グラム)の土には1万種、100億個もの細菌がいて、全世界では1兆種いるともみられます。身近な土のウイルスは日頃接触している可能性が高いですが、永久凍土のウイルスは私たちの免疫がなくなっているかもしれないというリスクは、新しい問題としてあるかもしれません。いずれにしても、永久凍土もほかの土でも、よく知らないといけない、その上で冷静に対応していきましょうということだと思います。

-何かいいことも、ありますか

土から発見されたストレプトマイシンは結核の薬になり、静岡の土壌で発見された細菌からはイベルメクチンという寄生虫治療薬がつくられました。永久凍土の微生物から新しい薬が発見される可能性もあります。【聞き手=久保勇人】

地球沸騰化時代 約4万6000年の眠りから目覚めた永久凍土の線虫、現代人への影響は?