日本で唯一、ジャイアントパンダを擁する上野動物園(東京都台東区)から、雄のシャオシャオ、雌のレイレイが中国に返還されるまで1カ月を切った。1972年の初来日から54年。日本からパンダがいなくなる事態を、「看板役者」とともに歩んできた上野の街はどうとらえているのか。「パンダ専任大使」の肩書を持つ上野観光連盟名誉会長の二木忠男氏は、「希望は捨てず、『街の宝』とし今後も応援していきたい」と話す。【中山知子】
■4時間超待ち
昨年12月15日、上野動物園のジャイアントパンダ2頭の中国返還が正式発表され、パンダファンに衝撃が走った。もともと2月20日を期限に、返還は既定路線。新たな貸与への期待もあったが、高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁で日中関係が冷え込む中での返還に。新たな貸与の見通しは立っていない。最終観覧日は25日。観覧に予約不必要だった先月16日から21日までの期間中は、「4時間超待ちも珍しくなかった」(来園者)という。
申し込みがウェブ抽選制になった先月23日以降も、別れを惜しむ多くの人が動物園を訪れている。検疫のため現在は室内展示のみだ。二木さんは、「美術館や博物館にアメ横。上野の街にはポテンシャル(潜在能力)がありますが、パンダは際立って目立っていた。特別な癒やしの存在。(返還は)分かっていたことではありますが…」と残念がる。「おじいちゃんやおばあちゃんが、お孫さんを(上野に)連れてくる理由の1つに、『パンダを見に行こうよ』がある。そういうところから、お食事や買い物の流れになると思う。そうした要素を上野は全部持っていますので、ファミリーに合った地域。その良さをもっと出していきたいが、核になるパンダがいなくなる。今後はもともとの観光資源を生かしていくしかありません」。
■3年ブランク
上野では、2008年4月、雄のリンリンが亡くなった後、シャオシャオとレイレイの両親、リーリーとシンシンが来日した2011年2月まで約3年、パンダ不在だった時期がある。当時、上野観光連盟会長だった二木さんはあのころを「ブランクはちょっときつかったし、経済的にも低迷した」と振り返る。グッズ配布などのキャンペーンを行い、子どもたちが記した色紙を、当時の東京都トップ石原慎太郎知事に持参。パンダの再受け入れに慎重だった石原氏は、「ご神体じゃないんだから」とつれなかったというが、最後は二木さんらの熱意に折れた形になった。
2010年10月には、沖縄・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が発生。日中関係は悪化したが、翌年、リーリーとシンシンは予定通り来日した。当初の予定は2011年3月だったが2月に早まった。その後、東日本大震災が発生。二木さんは東北の子どもたちを勇気づけたいと、バスをチャーターして上野動物園に招いたこともある。
今回、シャオシャオとレイレイの返還後に新たなパンダが貸与される可能性について、以前、耳にしたこともあったそうだ。「ある意味、安心していた」だけに、今の流れは想定外の側面もあるようだ。
二木さんは、リンリン死去後の誘致活動からパンダとの関わりを深め、観光連盟の名誉会長となった今も、「パンダ専任大使」の肩書を持つ。「パンダは上野にとって大きな宝。看板役者」が持論。歴代の上野動物園長と会って勉強を重ね、黒柳徹子や湯川れい子さんらとともに、シャオシャオ、レイレイが命名された際の名前候補選考委員会メンバーも務めた。当時はコロナ禍で、それぞれが部屋にこもってリモートで議論。19万通超の応募の中から名前を選んでおり、2頭への思い入れは強い。
■再貸与を期待
そんな二木さんは、シャオシャオとレイレイ返還後の上野の街について、考えをめぐらせている。「上野の魅力を何とか残したい。もともとの観光資源はいっぱいありますので、それを生かしていくしかない」。パンダに関しては「次に来ることを期待するしかない。そういうことで対処していこうと決めています」とも話す。一方で「上野にはポテンシャルはありますが、パンダが際立って目立っていた。インパクトがあるものをなくすと、地域は弱くなる」とも口にした。
25日に向けて、街全体としての「さよならイベント」は予定しない。「静かに」その日を待つつもりだが、返還後も「パンダの色合いは残しておきたい。ファンの方の思いに応えられるよう、上野のパンダ愛を伝え続けたい」と話す。
自身にとって、パンダは「生涯の友みたいな。パンダの歴史は一生の宝物」という。胸元にはいつも、特別なパンダのバッジが光る。「これは、これからも外せないよね」と話した。
■マイナスの経済効果195億円
日本のジャイアントパンダの中国への返還は、昨年6月の「アドベンチャーワールド」(和歌山県白浜町)の4頭に続くもの。さまざまな事象に関する経済効果の研究で知られる関西大の宮本勝浩名誉教授の試算によると、日本からパンダがいなくなることによるマイナスの経済効果は「1年間で少なくとも、約195億円」という。
宮本教授は、白浜町では、パンダがいた約31年間で約1256億6000万円の経済効果があり、1年で平均41億円にのぼったと指摘。一方、上野動物園に関しては、17年6月から20年12月までの約3年半の間に、シャオシャオとレイレイの姉で人気を博したシャンシャン(23年2月返還)による経済効果が約539億円で、年間平均の経済効果は約154億円になったと試算。その上で「今回、上野動物園からパンダがいなくなると、少なくとも年間約154億円の経済効果が失われることになる」とし、上野の2頭が返還され日本にパンダがいなくなった場合、2カ所を合わせて失われる経済効果を少なくとも195億円と試算した。
宮本教授はまた、日本のパンダ不在が数年間続けば、マイナスの経済効果は数百億円にのぼる可能性があるとも指摘。「パンダ好きの日本人(私も含めて)のために、1日も早くパンダが戻ってくることを願っている」としている。
◆東京都恩賜上野動物園 1882年(明15)、旧農商務省所管の博物館付属施設として開園した日本初の動物園。72年の日中国交正常化を受け、雄のカンカン、雌のランランが来日して以来15頭が飼育され、パンダは上野の「シンボル」となってきた。同園には「世界3大珍獣」と呼ばれる「オカピ」「コビトカバ」「パンダ」がそろってきたことでも知られる。
園は来月8日まで、シャオシャオとレイレイの成長を振り返ったパネルや職員の寄せ書き横断幕を展示。6日からは2頭へのメッセージ募集をオンラインで始め、一部を中国野生動物保護協会と中国ジャイアントパンダ保護研究センターに届ける予定としている。

