イタリアのミルコ・デムーロ騎手(24)が手綱を取ったネオユニヴァース(牡3、栗東・瀬戸口)が、激しいたたき合いを制した。直線入り口で見つけたわずかなすき間を見逃さず、最後はサクラプレジデントとの追い比べにも一歩も引かない。ヒーローは冷静かつ大胆な騎乗で初のG1タイトルを獲得した。5年ぶりの関東馬制覇を狙ったサクラプレジデント(牡3、小島太)は頭差及ばず2着。2歳王者エイシンチャンプ(牡3、栗東・瀬戸口)は3着だった。

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馬体と馬体が激しくぶつかり合う。坂を上がって2頭の頭が並んだ。ネオユニヴァースの背中の上でデムーロは祈った。「僕の馬は勝負根性がある。たたき合いになれば勝てる」。ここまできたら馬の力を信じるだけ。左手でガッチリと手綱を押さえると、右手でこん身のステッキをたたき込んだ。気迫だけは負けたくない。サクラプレジデントを操る田中勝の闘志に正面からぶつかり合った。

皐月賞史上に残るデッドヒート。結末はわずかの差だった。頭差でつかんだ初めての栄冠。来日5年目で知ったG1の味に喜びを爆発させた。「とても興奮した。最高にうれしい」。スタンドへ2度3度と左手を突き上げた。最後は田中勝の頭をたたく荒っぽい勝利のポーズで決めた。24歳の若者はこみ上げてくる感情を抑えきれなかった。

1度は負けを覚悟した。スローな流れにもかかわらず後方からのレースとなった。内々で閉じ込められ、勝負どころで一瞬、行き場がなくなった。「4コーナーで前にいる馬たちが横一線。スペースがない」。1番人気馬は絶体絶命のピンチに襲われた。「もうダメかと思ったよ」。スタンドで見詰める瀬戸口師も思わず天を仰いだ。

だが、あきらめるわけにはいかなかった。「馬の力を信じていた。僕の馬は強い馬」。再び前を向き直すと、視界を捕らえたものがある。エースインザレースとザッツザプレンティの間にできた1頭分のスペース。見逃すわけがない。「行くしかない」。思ったときには体が動いていた。愛馬は抜群の脚で突っ込むと、次の瞬間には前へ。力だけでは勝てない。勝者には天も味方した。

デムーロは今日21日、イタリアへと帰国する。6週間後のダービーで再び、ユニヴァースにまたがることになるのか? 今後はオーナーサイドの協議にゆだねられることになるが、もちろん乗りたい気持ちは強い。「あと400メートル、まったく問題はない。ノープロブレムだよ」。史上初の外国人ダービー制覇へ意欲は十分だ。

忘れられない記念日となった4月20日、母国イタリアはイースターだという。「神様に感謝したい。最高のプレゼントをくれた」。愛馬の力を信じ続け、最後まで望みを捨てなかったヒーローは、大好きな日本で大きな勲章を手にした。【鈴木良一】

◆ネオユニヴァース▽父 サンデーサイレンス▽母 ポインテッドパス(クリス)▽牡3▽馬主 (有)社台レースホース▽調教師 瀬戸口勉(栗東)▽生産者 社台ファーム(北海道千歳市)▽戦績 6戦5勝▽獲得賞金 2億5041万6000円▽主な勝ちクラ 03年きさらぎ賞(G3)03年スプリングS(G2)

(2003年4月21日付 日刊スポーツ紙面から)※表記は当時