今春で引退する調教師が語る連載「明日への伝言」の第5回は特別編。美浦の名伯楽、国枝栄調教師(70)が4編にわたって語った。最終編は現在、そして未来の日本競馬界へ思いを込めた。【取材・構成=岡山俊明、桑原幹久】

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競馬ファンの延長線でトレセンに入ってきたんで、常に競馬ファンの視点で物事を見るっていうのはあるよね。メディアは競馬ファンの代表みたいなもの。日本は特に馬券の売り上げが大きくて、それが我々の根底にある。だからメディアにちゃんと協力しなきゃいけないと思っている。アメリカだとプロテニスでも野球のメジャーリーガーでもメディア対応は義務。黙ってる昔の怖い調教師の気持ちも分かるんだよ。だいたい世の中半分。いいと思う人と悪いと思う人がいる。余計なこと言っちゃったなっていうのはあるんだけど、ファンあっての競馬だからね。

中の話でいえば、JRA自体に自分たちの競馬だという認識があまりにも薄い。一企業ならいい商品が根底にあって、その売り上げが伸びて、いいビジネスになる。それがJRAでいえば今は馬券が売れちゃってる。自分たちの商品であるレースの質の担保への意識が薄いよね。いつも言うけど、一番迷惑してるのは馬なんだよ。

一つ挙げれば除外馬の話。新馬戦でもG1でもすぐ抽選。頭数が多すぎてどうにもならないから、当たったらよかったですねって。そんな話はねぇだろ。JRAは「勝つ意思なくして出走させてはならない」って言ってるんだから、レーティングなり成績なりの指標でコントロールするのが彼らの仕事。レースに出たければ出てもいいけど信賞必罰。淘汰(とうた)されないといけない。

人も同じだよ。定年制度はしょうがねぇなっていうのはある。だけど、すべて良しとしていくよりは調教師でも騎手でも従業員でも、ニーズがあってやる気があるなら、続けられる形があってもいいんじゃないかと思う。既得権にしがみついて続けるってことじゃなくて、その人が馬主に認められて預けたい馬がいて、ファンもその馬券を買いたいならってこと。(柴田)善臣(騎手)だってオファーがあって、勝っているから続けられてるんだろう。

もともとJRAは公平性を保つために内厩制ってことで東西にトレセンを作った。だけど今は外厩ができて在厩日数が減ったりして、昔よりビジネスライクになり過ぎちゃってるかなとは思うよね。まあ俺のことだけで言えば、そのおかげで成績を残したとは思うんだよ。先にやめていった人のことを考えれば満足度は低かったと思う。俺は要領よくというか、そこら辺いいかげんだから。文句は言ってるけど、うまいこと対応もしてたから。

はっきり言えば馬は分からないんだよ、みんな。だから時代の流れをつかんでいくっていうのは必要だよね。ノーザンファーム、社台ファームは世界中に網を張って成長してきたから今がある。企業努力だよね。俺らもそうやっていかないといけないと思うよ。

これからのこと? 俺は馬をとったら何の役にも立たないからな(笑い)。この業界にいるからおだてられて、いろいろ話も聞いてくれるんだろうから。やりたいことはあることにあるんだよ。何らかの形で、というのはあるけど、まあ適当にやっていきますよ。(おわり)

◆国枝栄(くにえだ・さかえ)1955年(昭30)4月14日、岐阜県生まれ。東京農工大卒。1978年に美浦・山崎彰義厩舎で調教助手となり、1989年に調教師免許を取得。1990年開業。1998年ダービー卿CT(ブラックホーク)で重賞初制覇。1999年スプリンターズS(ブラックホーク)でG1初制覇。2009年アパパネ、2018年アーモンドアイで2度の牝馬3冠制覇を達成。2007年有馬記念をマツリダゴッホで制覇。JRA通算9508戦1121勝。現役唯一の1000勝以上で同最多勝。JRA重賞70勝(うちG1は22勝)。2019年にアーモンドアイでドバイターフ制覇。