祝いの場で、あえて厳しい言葉を発した意図は-。「ケイバラプソディー~楽しい競馬~」は、先日行われたJRA競馬学校入学式でのスピーチについて奥岡幹浩記者が取材した。騎手の卵たちに向けた約3分間の訓示。校長がそこに込めた思いとは。
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学校トップの言葉を取材ノートに書き留めながら、記者も背筋が伸びた。今月7日、JRA競馬学校騎手課程の入学式。騎手の卵たちの門出を祝福した緒方一徳校長(58)は、手綱を引き締めるかのように語った。
「ここで皆さんにあえて厳しい話をします。今年卒業予定だった42期生は、結果として卒業生がゼロ名となりました。これは競馬学校開校以来、初めてのことです。非常に残念であり、重く受け止めなければならない事実です」
晴れやかな席に張り詰めた空気が漂う中、スピーチはさらに続いた。
「騎手はただ乗るのがうまいだけでは務まりません。公正確保は皆さんの命題です。ルールを守り、自分を律することができない者に、ファンの夢を背負う資格はないのです」
3分間ほどの訓示では、一つの不祥事や甘えが競馬全体の信頼を揺るがすことにも言及した。厳しい言葉の中に貫かれた真理。新入生たちは、微動だにせず聞き入った。
緒方校長によれば、スピーチ文は2週間ほどかけて作成した。「今春卒業生がいなかったことは、とくに伝える必要があると考えていました。生徒たちに強く自覚してほしかったし、われわれもしっかり対応していかなければなりません」。入学式だからこそ強調したかったのが、卒業式がゴールではないということ。「卒業して初めてスタートラインに立てる。騎手になるだけでなく、信頼され、活躍できるようになってほしい」と熱く語る。
入学した次男の保護者として参列した、J・G1・11勝の石神深一騎手はどう受け止めたか。「口調は強いけれど、校長が話していたのは当たり前の内容。普通の高校とはぜんぜん違うわけですからね。甘い気持ちで入ってきていないか。3年間でプロになってほしい。そんな気持ちを伝えたかったんだと思う」。25年ほど前に石神騎手自身が同校で学んでいた当時、緒方校長は教官として別の期を担当していたとも振り返る。「厳しいけれど、しっかりと人を育てる方。人格者です」と信頼を寄せる。
今春入学した騎手課程第45期生は7人。自覚と覚悟と大志を胸に、濃密な3年間を過ごす。【奥岡幹浩】(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)
◆緒方一徳(おがた・かずのり) 1967年(昭42)10月6日生まれ。90年に日本中央競馬会入会。92年から9年間、JRA競馬学校の教官として指導にあたる。その後、スターター(発走委員)を17年、栗東トレーニングセンター技術参事役(裁決委員)を7年務め、25年3月に競馬学校校長に就任。





