街中の歩道にテントを張って暮らす人たちも
街中の歩道にテントを張って暮らす人たちも

想像を絶する不動産価格の高騰が続くロサンゼルス(LA)で今、ホームレス問題が深刻化しています。年間を通じて比較的温暖で雨が少ないLAは、ニューヨークに次いで全米で2番目にホームレスが多いことで知られていますが、特にここ数年でその数は急増。公共のシェルター(避難所)に収容しきれないほどの人数がいて、その多くがバス停のベンチや公園、廃墟となった建物、高架下などを寝床とし、路上には多くのテントが立ち並ぶ様子も見られます。エリック・ガルセッティ市長は2015年に「非常事態宣言」を出して解決に向けて緊急用シェルターの設置や支援住宅の建設などに2000万ドル以上を投じてきたにも関わらず、このほどLAのホームレス数が前年比で16%増加して約3万6300人になったことが発表され、大きな衝撃が広がっています。

スキッドロウは昼間でも車で通行するのをためらう人も多いほど、路上にホームレスが溢れています
スキッドロウは昼間でも車で通行するのをためらう人も多いほど、路上にホームレスが溢れています
ロバート・ダウニー・Jrとジェイミー・フォックス主演の映画「路上のソリスト」(09年)ではスキッドロウが描かれています
ロバート・ダウニー・Jrとジェイミー・フォックス主演の映画「路上のソリスト」(09年)ではスキッドロウが描かれています

2008年のリーマンショック直後に爆発的に増えたホームレスは一時減少傾向にあったものの、ここ数年の不動産価格の高騰はリーマンショック以前をしのぐ勢いで、不動産バブルが原因で路上生活となる人が増えているのです。報道によるとLA市民の多くが、収入の半分以上を家賃として支払わなければ住む場所が見つからないほど賃貸物件の価格が高騰しているといいます。また、近年は若年層のホームレスも増加しており、学費ローンを抱えた大学生がホームレスになるケースが社会問題にもなっています。またそれ以外にも退役軍人の心の問題やアルコールや薬物中毒、高額な医療費での破産や刑務所帰りなどさまざまな理由がありますが、LA近郊の街を含めたロサンゼルス郡では実に5万9000人ものホームレスがいることが明らかになり、住民からは不安の声も上がっています。

ビジネス街のすぐ隣にあるスキッドロウは、リトルトーキョーとは目と鼻の先
ビジネス街のすぐ隣にあるスキッドロウは、リトルトーキョーとは目と鼻の先

ホームレスというと一般的に失業者や病気などが原因で働けなくなった人、薬物中毒患者などをイメージする人が多いですが、LAでは普通に仕事をして稼いでいる人でもホームレスになっているのが現状。毎年値上がりし続ける家賃に耐えられなくなった人たちは、車上生活を余儀なくされ、スポーツジムのシャワーなどを利用しながら車から通勤や通学をしている人も大勢います。職のない人たちは、幹線道路の交差点や高速道路の出口付近でドライバーから寄付を募る他、空き缶やペットボトルを拾い集めて1日に十数ドルの収入を得てファストフードで食事をして食いつないでいます。ダウンタウンの一角にはスキッドロウと呼ばれる路上生活者が集中するエリアがあり、その一帯は両側の歩道にびっしりとテントが立ち並び、ショッピングカートに荷物を積んだホームレスたちが昼夜問わず歩いています。薬物中毒患者も多く、車道に出てわめき散らす人がいたり、路上に注射器が落ちていたりと、LAで最も治安の悪い地域でもあります。しかし今では、スキッドロウから一般の住宅街やオフィス街、さらには高級住宅地にまで生活圏が広がっており、道端に投棄されたごみや悪臭、ゴキブリなどに悩まされる人が増えています。17年にはホームレスが調理で使った火が原因の火災事故も起きており、治安への懸念や公衆衛生面を心配する声も多く聞かれます。

ハリウッドの中心地にあるホテルの横で眠るホームレス
ハリウッドの中心地にあるホテルの横で眠るホームレス

貧困や薬物問題のみならず、高騰する大学の授業料を払うために高利子の学生ローンを組んだ大学生がアルバイトだけでは借金の返済と生活費を賄うことができない現状や高額な医療費が払えず病院からスキッドロウに姥捨て山のように運ばれてくる人がいる現実、好景気に沸くのは一握りの富裕層で一般の人たちは賃金が減る一方で住宅価格が高騰していることなど、ホームレス問題は米国社会の闇を浮き彫りにしています。2028年にはオリンピックの開催も決まっており、いつまで続くか分からない不動産バブルに怯える人たちがたくさんいるのです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)