新型コロナウイルスの感染拡大による「ステイホーム」命令で人々の生活が一変した2020年3月から2年が経過した現在、アメリカではすでにコロナ禍前の日常を取り戻しています。屋内でマスクを着用している人を見かける以外は、ソーシャルディスタンスを気にすることもなく、コロナ前と同様に外食やソーシャルライフを楽しみ、大型イベントや旅行にも出かけるなど当たり前だった日常生活を謳歌する人が増えています。

大勢の人でにぎわうフロリダのディズニーワールド
大勢の人でにぎわうフロリダのディズニーワールド

そんなアメリカでは、今月末に夏休みシーズンの幕開けとなる3連休メモリアルウィークエンド(30日の戦没将兵記念日による連休)を控えており、すでにガソリン価格が過去最高を更新するなど旅行需要も盛り上がっています。

昨年のメモリアルウィークエンドもワクチン接種の普及によって前年比で60%ほど国内旅行需要が増えたと言われていましたが、今年は旅行予約データによると4月中旬の時点ですでに昨年の水準と比較して122%予約が増加していると報じられています。国内移動やメキシコ、カリブなど近郊のリゾート地への旅行が中心だった昨年と比べ、世界の多くの国や地域で水際対策が緩和されている今年は、海外旅行に出かける人も増えているようです。

この夏もサンタモニカビーチは大勢の観光客でにぎわうことになりそうです
この夏もサンタモニカビーチは大勢の観光客でにぎわうことになりそうです

コロナ禍以前は日本旅行は人気が高かっただけに、この2年間の間も周囲の人たちから「日本に行きたい」「いつになったら日本に行けるのか」といった声を多く聞いてきました。アメリカではワクチンを2回接種した外国人は出発前の陰性証明書があれば入国後は検査も隔離の必要もなく(5月11日現在)、これまで厳しい感染対策を行ってきたオーストラリアでさえ出発前のコロナ陰性証明や到着後の検査、隔離の必要もなくなっており、「なぜ日本だけそんなに厳しいの?」と疑問の声も上がっています。

そんな中、ようやく日本政府が今月中にも外国人観光客の受け入れ再開を検討することが報じられ、この夏には日本旅行が解禁となる可能性が出てきました。この2年ほど日本行きを我慢してきた人たちにとっては歴史的な円安も後押しとなり、解禁されれば大挙して観光客が押し寄せるかもしれません。そこで懸念されるのが、今でも入国まで数時間かかるとされる厳しい水際対策です。本格解禁されれば、厳しすぎると海外在住者の間で不評な入国時の検査も簡素化されるでしょうが、コロナ禍で人と接触しない新たな生活様式がすっかり定着し、デジタル化が当たり前になっているアメリカ人には、わざわざ紙の書類を手に何度も係員によるチェックを受ける日本式の水際対策は理解不能であることは間違いありません。

この夏もサンタモニカビーチは大勢の観光客でにぎわうことになりそうです
この夏もサンタモニカビーチは大勢の観光客でにぎわうことになりそうです

また、入国に必要な陰性証明書についても外務省指定フォーマットへの記入が強く求められている点も、海外旅行者を受け入れるなら再考すべきでしょう。アメリカでは無料で受けられる検査場もある中、この日本式フォーマットでの陰性証明書をもらうためだけにそれを発行してくれる医療機関を探し、200ドル近く支払わなければならないというのは渡航のハードルになることは間違いありません。そもそも陰性証明書はコロナで陰性であることを証明するためのものであり、名前や生年月日、検査日時など必要な情報が入った一般の陰性証明書でなんら問題はないはずで、グローバル化が進んでいるこの時代になぜ日本独自のフォーマットが必要なのか合理主義のアメリカ人には理解し難い部分があると思います。

ホーム検査キットが普及して以前に比べて検査場は減っているものの街中で気軽に検査できる施設がたくさんあります
ホーム検査キットが普及して以前に比べて検査場は減っているものの街中で気軽に検査できる施設がたくさんあります

そしてもう一つの懸念は、ポストコロナが進むアメリカから入国した多くの人は、おそらくマスクを着用せず観光を楽しむことになるだろうということです。コロナと共存、特別なものではないという考えが定着してきているアメリカ人が、日本の蒸し暑い夏にマスクをつけて出歩くことは苦痛に感じるでしょうし、そもそも本国でもマスクをしていない人たちは日本でも屋内や公共交通機関で「着用義務」がない限り着用することはないでしょう。観光でテンションが上がり、大声で騒ぐなどする人もいるでしょうし、電車の中や混雑する店内などで不快に感じる日本人が出てくるかもしれません。また、アメリカ国内でもマスク着用を巡って飛行機内でトラブルが多発しており、遅延や緊急着陸も急増していることを考えると国内線で同様のトラブルが起きることも十分考えられます。

混雑するアメリカの空港
混雑するアメリカの空港

普段からマスクをするのが当たり前になっている日本ですが、価値観の異なる海外の人に同じように行動するよう求めるのは難しく、観光客の受け入れを機に感染対策の法整備や「マナーとして当たり前」という雰囲気そのものを考え直すことも必要かもしれません。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)