かつて石北本線には「奥白滝」「上白滝」「白滝」「旧白滝」「下白滝」と5駅連続で白滝が付く駅があり、鉄道ファンには「白滝シリーズ」と言われていた。だが人口減少に伴う利用者減で駅によっては停車する列車は1日1往復になって、やがては廃駅。今は白滝駅の1駅だけが残るのみ。前回は金華駅の訪問記だったが、同時(2016年3月)に廃駅となった「上」「旧」「下」の3駅も訪問した。(訪問は2015年9月)



最初に訪れたのは、当時「日本で最も列車が来ない駅」と言われた上白滝駅である(写真〈1〉)。下りの遠軽行きが7時4分、上りの上川行きが17時8分。以上である。1日わずか1往復しかない(写真〈2〉)。ともに始発にして最終列車。本当はどちらかに乗車して自慢したいところだったが、さすがにレンタカーを利用。驚いたのが国道にほぼ面しているにもかかわらず、駅前の砂利道がきっちり公道となっていること(写真〈3〉)。ちなみにその後に訪れた他の「白滝駅」も同様だった。


〈1〉上白滝駅の駅舎
〈1〉上白滝駅の駅舎
〈2〉1日1往復しかなかった上白滝駅の時刻表
〈2〉1日1往復しかなかった上白滝駅の時刻表
〈3〉国道から上白滝駅への道は公道となっていた
〈3〉国道から上白滝駅への道は公道となっていた

風雪に耐えてきた木造駅舎だった(写真〈4〉)。通過する特急(写真〈5〉)を見送って次の駅へと向かうことにしたが、上川と白滝の間は、次々と駅が廃止となり、上白滝駅の廃止で上川の次の駅が白滝となってしまった。その間37キロ。東京から千葉が39キロ、大阪から京都が43キロだから、かなりの距離だ。普通に乗って1駅間が40分という、他に類を見ない路線となっている。


〈4〉廃駅後、解体されてしまった上白滝駅の駅舎
〈4〉廃駅後、解体されてしまった上白滝駅の駅舎
〈5〉上白滝駅を特急が通過していく
〈5〉上白滝駅を特急が通過していく

白滝駅をはさんで旧白滝駅へと向かう。JRで「旧」のつく唯一の駅として知られる駅だった(※1)が、この駅をさらに有名にしたのは、駅を毎日利用する唯一の旅客である1人の女子高生の存在。生徒の卒業とともに駅の使命も終わる-。複数の番組がドキュメントとして取り上げ、最後の列車とともに全国に放送された。

(※1)現在「旧」の付く唯一の駅は神戸市営地下鉄の「旧居留地・大丸前駅」。こちらは神戸の繁華街の真ん中にあるのでアクセスは容易である


駅そのものは、国道沿いなので、すぐに分かる(写真〈6〉)。線路ひとつの、いわゆる棒状駅(写真〈7〉)。国道から踏切を渡ってすぐがホームへのスロープだ。ホームの上にかわいい待合室がある(写真〈8〉)。ここに止まるる列車が見たい、そんなことを思わせる駅だった。


〈6〉国道に沿った砂利道を渡ると旧白滝駅があった
〈6〉国道に沿った砂利道を渡ると旧白滝駅があった
〈7〉すべて「白滝」の駅名標。こちらはもうない
〈7〉すべて「白滝」の駅名標。こちらはもうない
〈8〉旧白滝の待合室で。時刻表と運賃表
〈8〉旧白滝の待合室で。時刻表と運賃表

先を急いで下白滝駅へ。こちらは国道から、やや奥まった場所にあって、ぼんやりしていると見逃しそうだ。駅前には牧場があり、のんびりと牛の姿を見ながら木造の駅舎前(写真〈9〉)に車を止めた瞬間、背後からワンちゃんにほえられてビックリ。


〈9〉下白滝駅の駅舎。中には入れないが現存する
〈9〉下白滝駅の駅舎。中には入れないが現存する

確かに初めて見るこの男は、駅舎とホームの周りをウロウロしているかと思えば、その後は駅舎を出たり入ったり。いろいろな角度からカシャカシャ音を立てて写真撮影までしている(写真〈10〉)。牧場を守っているであろうワンちゃんからすると、私は不審者の極みである。ということで素早く撤退と相成ってしまった。もちろんワンちゃんに全く罪はない。怪しい私が悪いのである。あのワンちゃん、まだ元気にしているのかなぁ。ちなみに今回紹介した3駅のうち、今も駅舎が残っているのは信号場となった(写真〈11〉)下白滝だけだ(※2)。そしてずっと前に廃駅となった奥白滝を含めると5駅あった「白滝シリーズ」は、特急の一部も停車する白滝だけになってしまった。

(※2)前回紹介した金華駅と同じく、信号場として建物は残っているが、中には入れない


〈10〉下白滝駅の駅名標
〈10〉下白滝駅の駅名標
〈11〉下白滝駅は列車交換が可能だったため、今は信号場となっている
〈11〉下白滝駅は列車交換が可能だったため、今は信号場となっている

さて、5月29日に記した備後落合の時もそうだったが、石北本線沿いにも立派な国道が走っている。沿線を車で訪問したのはそれに十数年ぶりだったが、立派な自動車専用道もできていて、旭川からあっという間に白滝まで着いてしまう。鉄道と道路そして高速道整備。さらには在来線と整備新幹線。地域発展のための設備が、いつから“二律背反”の存在になってしまったのだろうか。【高木茂久】