「スクリーン」という駅名を聞いて何を想像しますか?(写真〈1〉) 近江鉄道の後編はオール片仮名の駅から夕日が映える古典の駅まで魅力あふれる駅を紹介。おそらく1日かけると、ちょうど良い旅程となるはず。沿線と車窓も含め、秋の行楽シーズンにぜひ訪れてほしい路線だ。(訪問は昨年11月)


〈1〉スクリーン駅の駅名標
〈1〉スクリーン駅の駅名標

駅名がすべて片仮名というのは、どうしても目がいってしまう。有名なのはJR北海道の「ニセコ」で、駅名を片仮名にするため町名を変更した有名な話がある。その後、全国各地で見かけるようになったが、それでも日本中で20駅ほどしかないはずだから貴重な存在には違いない。

近江鉄道にあるのは「スクリーン」。より目をひく駅名である。片仮名の駅は施設を表すものが多く「ユニバーサルシティ」(JR西日本)「ハウステンボス」(JR九州)「テレコムセンター」(ゆりかもめ)など、最寄り駅であることが一目瞭然。「フラワータウン」(神戸電鉄)「オレンジタウン」(JR四国)のように新興住宅街を思わせるものがあるが「スクリーン」は「えっ」と思わせられる。


〈2〉多賀大社の最寄り駅である多賀大社前駅
〈2〉多賀大社の最寄り駅である多賀大社前駅

米原から出発して多賀大社の最寄り駅である多賀大社前(写真〈2〉)まで行き折り返し。次がスクリーン駅だ。「映画館でもあるのか?」と想像する方が必ずいると思うが、「SCREENホールディングス」彦根事業所の従業員の利便性を高めるために設置された駅。前回紹介した「京セラ前」と同じ目的を持っている。11年前に設けられた。無人駅だが平日の通勤時間帯は駅員が派遣されるほどにぎわうという(写真〈3〉〈4〉)。


〈3〉スクリーン駅に入線した電車
〈3〉スクリーン駅に入線した電車
〈4〉スクリーン駅の駅舎
〈4〉スクリーン駅の駅舎

ただ特筆すべきは駅が事業所の敷地内にある点で、これはオール片仮名の駅より貴重な存在。敷地内にある駅といえば、鶴見線の海に近い駅「海芝浦」が有名だが、異なっているのはスクリーン駅は一般道にもつながっていること。それでも敷地内ということで写真撮影は遠慮気味にしてからお隣の高宮駅を目指す。



1キロもない距離で電車の本数も少ないので、ここは徒歩。11月という季節で歩くのにはちょうど良い。名神高速が近いため、いろいろな企業の事業所があることが分かる。こういうのは歩けばこその楽しみだ。高宮は多賀線と本線の乗換駅。古い待合室が残る(写真〈5〉〈6〉)。


〈5〉本線と多賀線の乗換駅となる高宮駅
〈5〉本線と多賀線の乗換駅となる高宮駅
〈6〉高宮駅に残る古い待合室
〈6〉高宮駅に残る古い待合室

近江鉄道の拠点となる八日市で昼食をとって前回書いた京セラ前駅で下車、そのままJR草津線、信楽高原鉄道の接続駅である貴生川駅へ(写真〈7〉)。JRに乗り換えて草津経由で近江八幡まで移動して再び八日市を目指す(写真〈8〉〈9〉)。


〈7〉貴生川駅は信楽高原鉄道の乗換駅。今はNHK朝の連続テレビ小説で盛り上がる
〈7〉貴生川駅は信楽高原鉄道の乗換駅。今はNHK朝の連続テレビ小説で盛り上がる
〈8〉近江八幡からき近江鉄道120周年の復刻塗装となった赤電に乗車
〈8〉近江八幡からき近江鉄道120周年の復刻塗装となった赤電に乗車
〈9〉近江八幡の駅名標は年季の入ったものだった
〈9〉近江八幡の駅名標は年季の入ったものだった

短い秋の日は、既に夕暮れ時。最後にこの時間帯に目指す駅は最初から決めていた。八日市のひとつ手前の新八日市。大正時代に建築された洋風駅舎が今も残る。ツタに覆われる趣のある駅だ(写真〈10〉〈11〉〈12〉)。


〈10〉夕闇の迫る新八日市駅に電車が入線する
〈10〉夕闇の迫る新八日市駅に電車が入線する
〈11〉ツタに覆われた新八日市駅の駅舎
〈11〉ツタに覆われた新八日市駅の駅舎
〈12〉新八日市駅の構内。以前からの改札口も現存している
〈12〉新八日市駅の構内。以前からの改札口も現存している

この日、鉄道ファンと思われる人には朝から全く会わなかったが、夕日に映える駅舎で知られるここだけは別のようで、数人が立派な機材で撮影している。コンパクトカメラの私はじゃまにならないよう、控えめに撮って、1日を終了させた。でもきれいだったなぁ。

今回は紹介できなかったが、日野駅など明治からの木造駅舎も残る近江鉄道。実に魅力的なのだが、国内の他の地方私鉄と同様、経営的には楽でない状況にある。もちろん地元の大切な足でもある。貴重な路線も駅舎もずっと残ってほしいと願っています。【高木茂久】