薬物を巡る世界の動きはどうか。国立精神・神経医療研究センター「薬物依存症治療センター」の松本俊彦センター長はいう。

 「薬物対策で厳罰主義を最初に唱えたのはアメリカ。70年代、ニューヨークはまさに麻薬まみれでした。当時のニクソン大統領は『敵はドラッグだ』とし、厳しい薬物撲滅をはかりましたが、まったく効果がなかったのです。以来40年が過ぎて、刑務所に収容される人はどんどん増え、薬物の売買価格が下がると同時に純度が上がり、注射器の回し打ちからHIV感染が広がりました。薬物の過剰摂取で死亡する人も増えた。何よりも、違法化することで、反社会組織が跋扈(ばっこ)し、手が付けられない状態になってしまったのです」

 こうした状況を2011年に、非政府組織(NGO)である「薬物政策国際委員会」が、「国際的な薬物戦争は、世界中の人々と社会に対して破壊的な影響を与え失敗した」と結論づけた。つまり、法律で厳しく取り締まる薬物政策は、薬物を消滅させるという目標を達成するどころか、暴力を大規模に広げていることを指摘したのだった。そして闇市場は伸長し、乱用者は烙印(らくいん)を押されて依存症治療から疎外される。松本氏が続ける。

 「アメリカで1920~30年代にかけて行った『禁酒法』では、地下で密造が横行し、ギャングが大きくなった。質の悪いメチルアルコールが横行し、死亡したり失明者が出た。薬物対策もまた同様の結果。違法化することでデメリットもあるということです」

 規制をしても形を変えるだけのイタチごっこは、危険ドラッグが違法化され、一見収まったかに見えても、化学式を変え、より危険になっている“危険ドラッグ”の現状と重なっているのが実態だ。

 「たとえばイスラム圏ではアルコールも違法薬物。違いはあるが、問題は“それ”にはまっている人たちには生きづらさがあるということでしょう」(松本氏)。