頭を切らずに治す定位放射線治療の「ガンマナイフ」。治療数のもっとも多い適応疾患は「転移性脳腫瘍」で、前回までに紹介しました。今回からはガンマナイフの適用疾患の「脳動静脈奇形(AVM)」を取りあげます。

脳動静脈奇形という疾患をご存じでしょうか。これは生まれながらに脳動脈と脳静脈が直接つながってしまった疾患です。お母さんのおなかの中で、胎生3週のときにできます。動脈と静脈が互いの発生の過程で、偶然うまく接合できなかったため、その後、糸巻状に完成してしまい、毛細血管を形成せずに圧の高い動脈から圧の低い静脈に血液が流れる病態です。母体に何か異常があったとか、遺伝とかということではありません。

この状態でも、症状が何も出なければ問題はないのですが、やはり、年間2~4%の患者さんが出血を発症してしまいます。そうなると、まひなどを起こすにとどまらず、大出血を起こして命を落とすこともまれではありません。逆に、頭痛で受診をしてCT(コンピューター断層撮影)検査を受けて、偶然に発見されることも珍しくありません。

人生で出血する可能性は30%と言われています。ポジティブに考えると70%の人は脳動静脈奇形のあることも知らず人生を終えることができているのです。

脳動静脈奇形であることを知らないで過ごしているのであればいいのですが、親御さんが小さなお子さんの病気を知っていると、どうでしょう。朝起きたときに子供の口に手を当てます。子供が寝ているのか、死んでいるのかがわからないからです。毎日、今日は生きていてくれたとホッとする。精神が持ちません。

知ってつらい脳動静脈奇形の治療は、状態によって「手術」「血管内(カテーテル)手術」「ガンマナイフ」で対応します。それは次回に-。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)