「グシャグシャっと使いたいんですよね」。
真顔で、そう答えた。
2月末、高知・春野の2次キャンプ。居残りのティー打撃を終え、引き揚げてきた西武浅村栄斗内野手(26)が説明したのは、グラブの使い方だった。
軟式用と同じくらい薄く、柔らかい皮でのグラブ作成を依頼している。そんな話を球団スタッフから聞き、本人に意図を問うた。
その答えは、極めて抽象的だった。しかし、表情を見るに、適当に答えているわけではなさそうだ。「使っているグラブを見せてもらいつつ、説明してもらえないか」。そう頼んだ。
すると浅村は「今はちょっと」と両手を合わせた。そうやって謝りつつ、するするとロッカールームの中に消えてしまった。
すでにこの日の全メニューを終えたはずだった。「今はちょっと」の理由が思い当たらなかった。
抽象的な説明は、やはり面倒だと感じたからだったのか-。いい取材ができそうだった分、肩透かしを食った気分になった。
◇ ◇
気持ちの整理に、少しだけ時間を要した。いったんプレスルームに戻り、冷たくなったペットボトルのお茶を飲んだ。
気を取り直して、再び球場のグラウンドレベルへ出た。ほとんど選手はいなくなっていたが、外野フェンスぞいを、1人の選手が走っていた。
引き揚げたはずの浅村だった。
居残り技術練習を課されていない選手が、代わりに1日の「シメ」として課されるランニングメニュー。背番号3は、それを黙々とこなしていた。
しかし浅村は、居残りで200球以上もロングティーを打ち込んでいた。しかも全球、両翼100メートルのフェンス越えを狙い、フルスイングをしている。
実際に3、4割は柵越えしていた。そうしてヘトヘトになるまでバットを振り、引き揚げてきたばかり。それなのになぜ、居残り練習免除組と同じように、ランニングをするのか。
説明したのは球団スタッフだった。
「浅村のロングティーは、チームから課されているわけじゃなく、自主的にやっているだけなんです。だから、ランニングはランニングでしなくちゃいけないと、本人は考えているみたいですよ」
そう聞いている間に、浅村がランニングを終え、引き揚げてきた。まだ練習メニューが残っている間に、取材をお願いしたことをわびた。
浅村は「大丈夫です。それで、グラブでしたよね」と言うと、ロッカールームからグラブを取ってきた。
◇ ◇
「やわらかいものを使うメリットは、やっぱり球際ですね。どうやって握っても、しっかり取れる」
浅村は説明しながら、グラブの使い方を実演してみせた。
親指と薬指を合わせる縦方向の閉じ方。
小指から人さし指までを順番に親指に擦り合わせるような斜め方向の閉じ方。
そして親指と人さし指の付け根同士を合わせるような横方向の閉じ方。
グラブは手のひらそのもののように、自在に動く。まさに「どうやって握っても」だった。
究極の柔らかさを求め、当初は契約の久保田運動具店に「軟式用のグラブを使いたい」と申し出ていた。
しかし、本当に軟式用グラブを使うと、プロの打球、送球スピードの硬式球には耐えきれず、すぐに破損してしまう。そのため久保田運動具のスタッフは「軟式用の薄さ、柔らかさで硬式用クラスの耐用性を」と試行錯誤を始めた。
牛皮の種類。縫い合わせ方。果ては「どの色の染料が、牛皮にどんな影響を与えるか」までを比較した。
それでようやく柔らかさと、長いシーズンを耐えうる強度を兼ね備えた「浅村モデル」が完成した。
このオフ。担当が何個も届けたグラブの中から、浅村は2つだけ「これは育つかも」と選び出した。
見た目。皮の質。それらから「自分のイメージ通り動かせる」素質を見いだす。一見して分からない個体差を見極め、浅村は将来の相棒候補を決める。
柔らかいが、強くなければならない。自在に動かせるが、自由に動いてしまわない。そんな二律背反を解決するグラブが名手を支える。
◇ ◇
説明を終えた浅村は「ありがとうございました」と言い残し、チームバスに乗り込んでいった。
居残り練習に加え、ランニングまでこなしたため、宿舎に戻るのは選手たちの中でもほぼ最後になった。
「柔らかいグラブ」取材の中で、期せずしてもう1つ印象に残ったのは「強く、固い決意」だった。
仮にランニングをやらなかったとしても、誰も文句は言わなかっただろう。それでも浅村は走った。
「課されていない居残り」自体も、1カ月のキャンプ中、毎日欠かさず行ってきたものだ。
全球フルスイングのロングティーを、必ず最低200球。オフや練習試合の日をのぞいたとしても、少なくとも合計で4000球は打ってきた計算になる。
今季から主将。背番号も歴代主砲が背負ってきた「3」を引き継いだ。
周囲は「その自覚の現れじゃないですかね」「背中でチームを引っ張っている」と評する。そして「オレたちもやらないと」と練習に精を出す。
浅村と最も親しい熊代は「1度だけ、あいつが相談してきました」と明かす。
「主将になったら、オレはどうしたらええんですかね、って聞いてきました。あいつは多くを語るタイプでもない。だから『今まで通りでええんちゃう』って答えました」
静かに聞いていた浅村は「そうかな」とうなずいた。そしてそれを最後に、相談してこなくなった。
◇ ◇
誰よりもバットを振る。
誰よりも走る。
その姿が、周囲を引っ張っているように見えると、本人に告げた。
すると浅村は「そういうのでやってるわけじゃない」と首を振った。
「毎日ロングティーをするのは、単にいいスイングを身につけたいからです」
飛球線が長く見える分、打球が左右に切れていくのがわかる。そこがロングティーの狙いだ。
記者がかつてゴルフ担当だったことも踏まえ、浅村は説明する。
「右方向の打球も弱いスライスじゃなく、パワーフェード(直進性が高く、曲がりが少ないフェード)にならないといけない。インパクトでしっかり押し込めれば、そういうつかまった強い球になる」
浅村は日によって、打つ方向を左翼方向、中堅方向、右翼方向と変えていた。打球が真左から風を受ける状況をつくるためだ。
少しでもスライス回転が強まれば、打球は風に負けて大きく右にそれる。しっかり押し込めていないスイングは、球筋から一目瞭然になる。
極めて合理的な練習。打った球数や、グラウンドにいる時間の長さの問題ではなかった。浅村は「誰にも文句を言われないような成績を出したいんで」と珍しく語気を強める。
「今年は3割、30本、100打点。それくらいの成績で、若手選手を引っ張りたい。辻監督からも言われました。お前ら若手で勝てと。僕も若手で勝てるようにならないと、優勝はできないと思います」
野球に取り組む姿勢で生まれたリーダーシップは、あくまで副産物。誰にも恥じぬ成績でチームを引っ張りたいと、浅村は言う。
若手で勝つ。若き主将の決意は強く、固い。【西武担当 塩畑大輔】



