DeNA乙坂智外野手(23)が、メキシコで濃密な時間を過ごして帰ってきた。11月中旬、日本シリーズ終了直後からメキシコでのウインターリーグに参加した。単独武者修行は約1カ月半。心なしか、声は大きく、胸を張り、自信に満ちあふれていた。

 スーツケースを手に飛び立つ直前、成田空港のショップで買ったのは、ハチマキだった。「なにか日本らしいものがあったらいいなと思って」。選手はチームで日本人ただ1人。通訳もいない。見知らぬチームにとけ込めるか不安がよぎっていた。

 ヤキス・デ・オブレゴンの一員として合流初日。いきなり先制パンチを食らった。バス移動で、目的地は1000キロ以上離れたハリスコという町だった。バスに座っていると、メキシコ人が近づいてくる。「そこをどけ。そこは選手が座るところだ。お前が座るところじゃない。お前は一番前に座れ」。洗礼を受け、さらに10時間近い長距離移動。「これは結果で黙らせるしかない」。そう誓った初日だった。するとデビュー戦で3安打猛打賞。転んでもただでは起きなかった。

 日本のプロ野球ではあり得ない移動だが、選手たちは当たり前のようにプレーする。「来年の所属チームが決まっていない中、家族のためにプレーしている選手がほとんど。日本からきたからポジションがあいているという訳ではない」。監督、コーチがクビになり、米国からきた助っ人が翌日には、姿がいなくなっていた。結果を残さなければ試合には出られない。必要とされない。「毎日がヒヤヒヤで、結果を出すために全力プレーするだけだった」。異国の地では、驚きの連続だった。

 つたないスペイン語を駆使し、初日のバスで「どけ」と言われたサイモン打撃コーチに自ら歩み寄る。「僕は日本で活躍がしたい。思ったことは全部言ってくれ」。連日の早出特打。「労を惜しまず教えてくる。毎日付き合ってもらい、いいアドバイスをいただいて、結果につながった」と、初日のわだかまりは自然と消えた。チーム内では「トモさん」と呼ばれ、しゃべる日本語をおもしろがられた。“つかみ”で持ち込んだハチマキは、チーム内にとどまらずファンにも大受け。リーグ戦の途中から球団が乙坂グッズとして販売を始めるほどだった。

 27試合に出場し、打率4割1分の大活躍。「野球の技術はもちろん。メキシコという環境でプレーしたことを誇りに思う。人の温かさに触れました。行く前はメキシコのイメージはなかったけど、寂しがり屋で親切。帰るときは、お互い大号泣でした。メキシコの話だったら、あと2時間は話せますよ!」。語り尽くせないほどの経験が、乙坂を一回りも二回りも成長させる。【DeNA担当=栗田成芳】