1月某日。とっぷり日が暮れた西武第2球場の方から上品な打球音が聞こえてきた。室内をのぞくと栗山巧外野手(34)が打っていた。近くの狭山不動寺からぼんやり聞こえる釣り鐘の低音と、芯を食ったインパクト特有の鋭い高音が交互に響く。底冷えの所沢で恒例の厳かな空気があった。

 転がっているボールの数を見るに、かなりの時間振っていたと分かった。「午前中は都内で体をやって、打ちに来たんです」。いすに腰掛け30分ほど話した。

       ◇  ◇    

 10年前の優勝を知っている選手がおかわりと僕くらいになった。去年2位なら、優勝を狙うのは当たり前。どんな形でも勝利に貢献するのが仕事で、僕がチームのためにできる最善の仕事は打つこと。プロなんだから自分の身は自分で守るというか、打つしかない。やるべきことをやる。その準備をする。一緒です。

 ただ今年は、松井稼頭央さんと一緒に野球ができる。純粋に楽しみです。能力はもちろんですけど、練習で打撃を作り上げて、あれだけのキャリアを積んだ方。レジェンドですよね。それでも会えば「どうやって打ってる?」と聞いてくる。野球が好きとか、もっとうまくなりたいという貪欲な気持ちが、僕みたいな凡人の想像をはるかに超えているんでしょうね。

 映像で見たり、人から聞いたりとは、全く違うはずです。間近で技術を見て、話を聞いて、人間性にも触れて。西武は、特に野手は、そんな存在の方がいない。和田さん(和田一浩氏)も、35歳で中日へFA移籍した。ベテランになってなお伸びる形で活躍されて、力を保ったまま引退した。そのラインというか…和田さんの曲線ってすごくて、理想だと思うんです。でも、近くで見られなかったので。稼頭央さんから少しでも多く学びたい。

       ◇  ◇    

 35歳を迎えれば、どんな選手も野球人生の岐路に立つ。たゆまぬ努力と探求心で乗り越え「超」の付く一流へ。岐路を選ぶのではなく、険しいが1本しかない筋道を進むしかない。栗山はよく分かっている。【宮下敬至】