明日24日、東京オリンピック(五輪)まで1年を迎える。野球競技は20年7月29日、福島県営あづま球場で幕を開ける。メダルなしに終わった08年北京五輪を最後に、競技から除外されてきた。日本の強さを世界に示す舞台がいよいよ戻ってくる。メイン会場は横浜スタジアムだが、11年の東日本大震災からの復興を目指す福島が、最初のプレーボールがかかる地に選ばれた。現地の「あと1年」をルポする。

工事が進む20年東京五輪で野球・ソフトボールの会場となる県営あづま球場。バックネット裏からの景色(撮影・島根純)
工事が進む20年東京五輪で野球・ソフトボールの会場となる県営あづま球場。バックネット裏からの景色(撮影・島根純)

プラットホームに立った瞬間から「球音」が響いてきた。東京から1時間40分。新幹線を福島駅で降りると「栄冠は君に輝く」が耳に入ってくる。

メロディーを作った作曲家の古関裕而(ゆうじ)氏は、福島市出身。五輪直前の20年春から放送予定のNHK連続テレビ小説「エール」のモデルだ。「六甲おろし」「闘魂こめて」「紺碧の空」…全てこの人の作曲。五線譜が福島と野球を紡ぎ、日本の威信を取り戻す最初の舞台に選ばれた。

あづま球場を目指そう。福島駅西口からタクシーで20分弱。運転手は「大体が国体に合わせて整備された場所だからね。車がないと厳しいよ」。球場は体育館、陸上競技場、サッカー場も併設されるあづま総合運動公園にある。

県営あづま球場の外観(撮影・島根純)
県営あづま球場の外観(撮影・島根純)

公園内の駐車場で降りるとメーターは3750円。大会期間中は、福島駅からシャトルバス移動がメインになる。

緩やかな坂を上ると、吾妻連峰を背に球場がドーンと現れる。収容は1万4300人。昨年11月に始まった工事も、取材日の7月18日には「今日で球場内の工事はほぼ終了」(工事関係者)と説明してくれた。

ロッカールームもピカピカになった(撮影・島根純)
ロッカールームもピカピカになった(撮影・島根純)
選手用トイレもきれいになった(撮影・島根純)
選手用トイレもきれいになった(撮影・島根純)
新たに張り替えられた人工芝(撮影・島根純)
新たに張り替えられた人工芝(撮影・島根純)

場内を見て回る。ロッカールーム、トイレもシャワールームもピカピカ。ベンチ内は木製の長いすが3列。フェンス周りの緩衝材も新しくなった。最大の目玉は、天然芝から人工芝への張り替えだ。メットライフドームや京セラドーム大阪にも導入されているミズノ社製。取材当日は芝の間に埋め込むゴムチップのならし作業と、ソフトボール用のマウンド整備の最終段階だった。


三塁側のブルペン。新たに人工芝が敷かれた(撮影・島根純)
三塁側のブルペン。新たに人工芝が敷かれた(撮影・島根純)
三塁側の室内練習場(撮影・島根純)
三塁側の室内練習場(撮影・島根純)
外野席は観戦しやすいように人工芝が敷かれ、階段状になった(撮影・島根純)
外野席は観戦しやすいように人工芝が敷かれ、階段状になった(撮影・島根純)

ブルペンや室内練習場もリニューアルは完了。外野席も人工芝が張られ、観戦しやすくなった。場内は車いす昇降台も設置され、バリアフリー化。来年3月ごろまでに、バックネット裏のエレベーター設置工事が行われるだけだ。ただし、場内の座席は据え置き。少し古ぼけた椅子が地方球場のぬくもりを感じさせた。こけら落としは9月28日、イースタン・リーグの楽天-日本ハム戦(午後1時開始)を予定している。

福島駅前西口の近くにある放射線監視装置(モニタリングポスト)(撮影・島根純)
福島駅前西口の近くにある放射線監視装置(モニタリングポスト)(撮影・島根純)

福島駅に戻って少し歩くと、放射線監視装置(モニタリングポスト)を見つけた。数値は極めて低い。「3・11」から8年。震災の爪痕は今も線路脇にたたずんでいる。「復興五輪」と位置づけられる今大会を、地元の人はどう感じているのか。6月オープンの立ち飲み屋「いこい」で50代の男性客に聞いた。「今は夏競馬よ、盛り上がってるのは。オリンピックねぇ…福島の人間なのにチケット当たらねえ。復興五輪って言うなら、福島の人間に優先的に当ててくれたっていいだろぉ」と笑った。

球音の街に響いていたのはJRAのファンファーレ。開幕のプレーボールまで、あと1年。【島根純】

◆東京五輪への道 出場枠は開催国の日本を含めて6あり、11月のプレミア12上位2カ国が出場権を得る。さらに欧州・アフリカの12カ国が9月18日から5日間、出場権をかけた大会をイタリアで開催し、優勝国が出場権を獲得。北中南米の出場権をかけた大会は、20年2月に8カ国で行われる。これはプレミア12に出場したが五輪出場権が得られなかった北中南米の国と、26日からペルーで開催されるパンアメリカン大会で上位に入った国が戦い、優勝国に出場権が与えられる。残り1枠は世界大会として20年3月に開催され、欧州・アフリカ大会の2位と北中南米大会の2、3位、アジア大会の1、2位、オセアニア大会1位の6カ国により争われる。

◆東京五輪の野球日程 開催期間は20年7月29日から8月8日まで。7月29日にあづま球場で開幕し、日本戦1試合(正午開始予定)が行われる。30日からはメイン会場の横浜スタジアムで開催。8月1日までA・B組のオープニングラウンド(1次リーグ)が行われ、2日からノックアウトステージ(決勝トーナメント)に移行。6日までの5日間で準決勝までが行われ、8日に決勝、3位決定戦が行われる。横浜スタジアムでの試合開始は1試合の日が午後7時、2試合の日は正午と午後7時の予定。あづま球場では7月22日午前9時から、大会最初の競技のソフトボールが開催される。

◆福島県営あづま球場 両翼100メートル、中堅122メートル。1986年(昭61)開場。福島市のあづま総合運動公園内にある。名称は西の方向に吾妻(あづま)連峰を望むことから。