東京オリンピック(五輪)まで1年を切り侍ジャパン稲葉篤紀監督(47)はアジアを探訪した。8月に台湾、9月に韓国。アジアの雄の現在地に指揮官の目に映ったものは-。

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盛夏の8月中旬、稲葉監督の耳には“美爆音”が流れていた。甲子園の習志野吹奏楽部によるものではない。異国台湾の球場。スピーカーから流れる大音量のオリジナル応援歌に乗って、観衆が絶叫していた。最大時で120デシベル(ジェット機の音と同等)、平均でも80デシベル(同ボウリング、本紙調べ)。隣の人との会話は不可能に近い。

ただ、日本人の記者からしても騒音には感じない。応援歌の意味は分からないが、メロディー、リズム、語感が妙に絡み合い、脳内に浸透していく。思わず携帯の動画撮影を作動させる。心地良さにホームのファンがハイになっていくのも不思議ではない。

稲葉監督もこのカオスを警戒する。「視察した4試合でホームチームが全部、勝った。ずっと音が鳴っている状態で、ホームチームのヒット1本で盛り上がる空気感。すごく感じると思う」。ホーム4勝0敗は偶然ではない。16日現在で、台湾リーグのホーム戦は勝率6割6厘を誇る。日本のプロ野球は5割3分5厘。単純計算なら、ホームアドバンテージが台湾だと7分増しとなる。日本はこの環境下で、11月のプレミア12の1次リーグ最終戦で台湾と雌雄を決する。

野球そのものも進化を感じる。長年の打高投低の伝統は変わらないが、スモールベースボールのエッセンスも漂わせる。8月15日のラミゴ-富邦戦。ラミゴ3番の藍寅倫が2度も犠打を決めた。代表歴もあり、打率3割2分以上を誇る強打者が犠牲をいとわない。指揮官も「結構いい打者だと思ったけど、点が欲しいところではバントをさせて点を取りにいく野球をする。エンドランもするし、しっかり考えている。もっと打て打て野球かと思ったが、警戒しないといけない」と印象を変えた。

連覇中のラミゴのスタイルが代表とイコールで結ばれる。ラミゴ洪一中監督が代表指揮官も兼務する。17年WBCは連盟組織の対立でラミゴの選手派遣が見送られたが、今回は最強編成が組める。

さらにヤンキースで最多勝を獲得した王建民が代表のブルペンコーチに就任。王は海外プロチームと契約している選手との窓口も担当する。メジャー組の招集は難しいが、レジェンドの呼び掛けでマイナー組を中心に強力なスタッフがはせ参じる情勢だ。

東京五輪の前哨戦となるプレミア12で最初の「アジアの壁」となる台湾。だからこそ実情を知っておきたかった。「洪監督の采配を見ることができた。実際に自分の目で台湾野球がどうかというのは見ておきたかったですし、確かめられた」。収穫とともにアジア野球紀行が始まった。(つづく)【広重竜太郎】