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「書かれては困る」の対極、豪快星野監督/エッセー

笑えないんだけど、笑わずにいられない話ってある。「トライアウト」を見聞きするこの時期、フッと思い出し笑いをしてしまう。

12年2月、楽天入団が決まり星野監督(右)が帽子を持って登場し満面の笑みを浮かべる下柳
12年2月、楽天入団が決まり星野監督(右)が帽子を持って登場し満面の笑みを浮かべる下柳

星野監督の家で夕食をごちそうになり、すっかり満腹になって気がつくと、当の監督がいない。奥の部屋から、とぎれとぎれバリトンボイスが聞こえた。

戻ると顔が上気していた。「シモが来るぞ。倉敷でテストする。今のウチにはシモみたいなハングリーなやつが必要だ。まだまだ、やれる」。阪神を戦力外となった下柳を秋季キャンプに呼ぶという。

「へぇ。良かったですねぇ」と言ってすぐ、よこしまな思いが巡った。「監督、どうしたらいいでしょう。一応、記者なので」と記事化の交渉をした。

楽天に来て1年目のオフ、監督は「寛容」で片付けられないほどオープンだった。シーズン中から「なんでウチの記事はこんなに小さいんだ」が口癖。連日のお茶会も生かされない状態が続いていた。

「阪神は負けても毎日1面だぞ。たたいても何でもいいから、もっと書いてくれ。それが緊張感になって、選手の張り合いになる。ファンも応援してくれる」

「毎日ニュースがあるわけじゃないので」

「よし分かった! できるだけ協力する。でも、お前らも頑張れ。ニュースにかすったら、全部書け。オレは怒らない。結果、誤報でもいいじゃないか。その方が盛り上がる」

オフを前にそんなやりとりがあって、下柳である。いくしかない。

「書け。『楽天 下柳獲得へテスト』って堂々と書けよ。テストは受かるさ」

その場で会社に電話した。デカデカと掲載された翌朝…楽天の関係者から電話がかかってきた。「NPBから聞き取りを受けまして。『トライアウトが終わるまでテストはダメ。本当なんですか』って」。

球場で監督に会うと、ひょいと手招きをされた。三塁側カメラマン席で2人、声を潜めた。

「お前、ルール知ってたの?」

「一応は」

「言えよ~。『監督、お願いします』ってあいつらに言われたわ」

視線の先に渋面のフロント。

「前はそんなルールなかった。でも、シモほどの選手でもダメなのか。じゃあもし、山本マサが戦力外になっても同じか」

「てことですね」

「世知辛いな。実績を残した選手には敬意を払うべきだ。みんな一緒、はおかしい」

「スイマセンでした」

「いい勉強になったなぁ。今度から気をつけよ。ま、ルールはルール。守らないとな。シモのテストは先送りだ。でも良かったじゃないか。『楽天』の見出しがデカく載ったんだから」

バルタン星人のように「フォッフォッフォ」と高笑いして練習に向かった。

11年、楽天の人事関連ニュースは乱れ打ちとなったことは言うまでもない。「書かれては困る」の対極をいった、豪快な星野監督。手のひらで転がされたロシアンルーレット状態の日々は…楽しかった。(この項おわり)

【宮下敬至】

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