「この選手は日本で活躍しますか?」。何十年の間、外国人投手が来るたびに聞かれ続けた。

条件は多々あるが、技術的な活躍のポイントは2点ある。

(1)クイックの習得 技術面で最も重要。しっかりしたボールで、タイムは1・25秒が最低の目安になる。気をつけなければならないのはボーク。セットポジションの静止など、米国では取られないレベルでもボークとなる。

(2)球種、けん制のクセ修正 直球と変化球によって、グラブの位置や足の上げ方が変わったり、舌を出したり…日本の野球では間違いなくつけ込まれる。

昨季途中、巨人に来たルビー・デラロサは、この辺を器用にこなせた。外角低めにキッチリと真っすぐを投げ、変なクセもなかったので「面白いな」と直感した。ただ、技術以上に成否を左右するのがメンタル面や考え方、個人の人間性だ。以下の2点が伴っていないと、どんなに技術が高くても成功は難しい。

(3)プライドを捨てる 一番苦労するのは、力があって自分のプライドを捨てきれない人である。日本のコーチの言葉を受け入れられるか。彼らが何より大切にする「家族」の話題は、プライドをほぐし、話を理解してもらう上で効果があった。09年に巨人で出会ったディッキー・ゴンザレスはまさにそうだった。

外国人枠の関係で2軍スタート。気落ちする彼に「奥さん、子どもがいるだろ。家族のために頑張って、稼がんとな」と言った。顔を合わせるたび「家族は元気か?」「頑張れよ」と声をかけると「イエッサー」と誠実に取り組んだ。

(4)日本の野球への対応力、研究心 忠誠的な信頼をもらったゴンザレスには、日本の野球を教え込んだ。ポンポンとストライクを投げ込むタイプ。ボールにキレがあれば抑えるが、悪い時は見事に打ち込まれていた。「カウントが有利な時は、ボール球で誘うんだよ」と言うのは簡単だが「メジャーでは、ボール球を投げることは習ってない」と返されるのがオチだ。

11年10月、中日戦の試合後、愛息アイバーソン君(中央)と一緒にファンとハイタッチするゴンザレス
11年10月、中日戦の試合後、愛息アイバーソン君(中央)と一緒にファンとハイタッチするゴンザレス

「ブレーブスのマダックスを知っているか?」と尋ねた。当然「イエス」と答える彼に「そうか。お前はプエルトリコのマダックスになれ」とプライドをくすぐっておいて、大事なポイントを付け加えた。「すべての球をストライクに投げてもいいが、両サイドの低めに直球、シュート、スライダーを交互に出し入れしたらどうだ」。

ゴンザレスはこの年15勝を挙げ、チームの日本一に貢献した。外国人の活躍には、コーチが選手の考え方を理解すること、日米の野球の違いを理解することが大切だ。登録が5人に増えた今年は、助っ人にかかる比重が大きい。順位に直結する以上、例年以上に導き方も大切になってくる。(次回は9月上旬掲載予定です)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗。79年からコーチ業に。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から昨季まで、巨人で投手コーチ。

19年1月、巨人スタッフ会議に出席した小谷正勝巡回コーチ
19年1月、巨人スタッフ会議に出席した小谷正勝巡回コーチ